小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

神々と悪魔の宴 ⑩<悪戯な天使>

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
神々と悪魔の宴 ⑩

<悪戯な天使>

 天空に広がる黒い雲の切れ間から眩い光が幾条《いくじょう》もの筋を地上に下ろすとき、幼い子を連れた天使たちはその光の階段を使ってゆっくりと地上に降りて来るという――。

 そして今、一組の母子が教会の屋根の十字架の脇に降り立って辺りを見回していた。
 見下ろした風景の中には満開の桜の花が風に散り、風の通り道の辺りでは花吹雪となって、道行く人々を祝福しているかの様であった。
「ママ、あれはなあに?」
 シャンパン色の巻き毛と薔薇《ばら》色の頬《ほお》をした子供がつないだ母親の手を惹《ひい》いた。その身体はやわらく宙に浮揚《ふよう》し、小さな翼が可愛らしく動いている。正にエンゼルそのものであった。
「坊や、あれが人間よ。私達に似ているけれど翼がないでしょう?」
 しなやかな白い薄絹《うすぎぬ》に身を包んだ母親は微笑《ほほえみ》を浮かべながら白く耀《かがや》く翼を、一度だけ優雅に広げそして畳んだ。
「そうなの、ボク初めて見た。あんなに低いところを忙しそうに歩いて。人間って可愛いね」
 つぶらな瞳を輝かせてせわしなく辺りを見回す幼エンゼルを天使の母親は限りない慈愛《じあい》の眼差《まなざ》しで見つめる。
「さあ坊や、今日はただ人間を見に来たのではないのよ。先ずはこのクピドの弓を使うお稽古《けいこ》をしましょう」
 天使の母親は何処《どこ》から取り出したのか、一揃いの弓と矢筒を差し出した。
「はい、わかったけど、ママ。それは何をするものなの?」
 可愛く小首を傾げる様はまるで星屑がこぼれ落ちる如くであった。
「これはね坊や、人間達の心と心を結びつけるものなの。いい、見てて御覧なさい」
 天使はそう言うとその小さな弓に矢を番えて引いた。
 矢の先にはサラリーマンと思しき男女の二人連れが急ぎ足で歩いていた。男が時計を見て歩調を速めると、大き目の荷物を持った幾分若そうな女の方が遅れだした。軽く足を引き摺っているのは新しい靴に馴染んでいないせいかも知れない。