いまどき(現時)物語
41階のフロアー、
高見沢がそこで見たものは、残念ながら何の変哲もないオフィス・スペース。
白っぽい壁に囲まれた筒状の長い廊下が天井灯に照らされて、ただ単に続いている。
壁沿いにはドアーが普通に並んでいる。
オフィスの集合体、そこからはあの神秘的な光を放つような気配は全く感じられない。
「なんでやねん … これ、ぜんぜんチャウやんか」
日々一杯ある業務遂行上での失態、
その挫け切った精神を蘇らせてくれたあの色気なパープルの輝きは微塵もない。
高見沢は何か未知なるものの遭遇を期待し、この最上階まで昇って来た。
しかし、今、目の前にある平々凡々たるこの現実。
そこには目新しいものは何もない。
「ちっともオモロくもないよ、どこにでもあるオフィスの風景か、だけどなあ … 」
やはりどうしても合点が行かない。
あの紫の光の発光源が、このビル内に絶対にあると信じたい。
高見沢は41階のフロアーを丁寧に探し回ってみる。
しかし、どこを探し回ってもそんなミステリアスな光源は現れない。
「クッソー、時間切れか」
高見沢はもう諦めて帰ろうかと、窓の外の夜景を眺めてみた。
「えっ、これって?」
突然気付くのだ。
窓からの夜景がほのかに薄紫がかっている。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊