いまどき(現時)物語
されどサラリーマンを長くやっていると、こういった場面に時々出くわす事がある。
人生経験豊かな高見沢、さすが対処法をわきまえている。
要は、適当にあしらってしまう事が一番。
いつもの通り、怪しい電話の防御策として、いい加減な応答を発してしまうのだ。
「ははーん、わかったぞ、キキちゃんか、御無沙汰でした、しっかりと憶えてるよ、
この前の二次会、みんなで祇園の店に飲みに行った時、確か俺の横に座ってくれて、
それで俺の右耳をカチカチと噛んでくれたよなあ、ホンマちびりそうなほど気持ち良かったで …
その節は、大変お世話になりました、アンガトー」
ここまで高見沢が適当にまくし立てると、ケイタイの向こうでは、なぜか暫く重い沈黙が続いているようだ。
高見沢はただひたすらに女性のリアクションを待っている。
少しの時間の流れの後に、ド肝を抜かす返事が返って来たのだ。
「私、キキじゃありません … 浮舟です」
更に至極残念そうな声で、訴えるように話しを続けて来る。
「もう高見沢さんにはがっかりしたわ、やっぱり進化の止まったただのモノノケだったのね、ホント不幸な事だわ」
高見沢は兎にも角にも信じられないのか、いずれにしても聞き返す。
「シュンマシェン、もう一度、どちらさんでしたっけ?」
「浮舟です」
女性は強い口調で名乗り返して来た。
高見沢は「えっ、ホントに?」と耳を疑った。
そして、身体が驚きでカチンと固まってしまったのだ。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊