いまどき(現時)物語
誰かが電話を掛けて来たのだろう。
高見沢はおもむろに取り出し、着信表示を見てみる。
どうも番号登録をしていない者からか、名前の表示はなく、番号のみの表示だ。
面倒な事になっては困るから、登録者名の表示がない着信の場合はケイタイに出ない事にしている。
しかし今日は違った。
一日の仕事も終わり、心に少しの余裕があったのだろう。
「こんな電話番号、知らんなあ、まっいっか」と独り言を吐きながら、通話ボタンを押してしまったのだ。
しかし、掛けて来た相手が誰か認識出来ない。
「もおし、もし … もし、もおし」と、いつもの口調で呼び掛けをするだけ。
およそこんな場面では、誰も進んで自らを名乗らないものだ。
高見沢にもそれなりの警戒心はあり、自分の名前を伝えない。
「あのお … 高見沢さんですか?
私、思い切ってお電話させてもらいました」
意外にも柔らかい女性の声が耳に飛び込んで来る。
高見沢は直感で、これはひょっとしたら、どこかの飲み屋のお姉さんからかと想像を巡らしている。
しかし、残念ながら思い当たらない。
どう答えるべきかと迷っているが、何はともあれ慎重に聞き返す事にした。
「高見沢ですけど、何か御用ですか?」
女性は高見沢である事を確認すると、全く警戒感を持つ様子もなく、更に馴れ馴れしく話して来る。
「良かったわ、やっぱり高見沢さんなのね … 私、誰だかわかりますか?」
高見沢はそう聞かれてみても、声の主がどこの誰だかさっぱり思い当たらない。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊