いまどき(現時)物語
東京、その初夏の夜空に鋭く、そして斬新に突き立っている高層ビルがある。
その最上階は死に番号の42階。
そこへ昇り行くためには、エレベーターの閉ボタンをシフト・キーとして使う事を見破らなければならない。
そのためか、滅多に昇り来る人はいない。
そんな42階に、究極ハッピー・ワールドへの入口がある。
べんがら格子戸をくぐり紫の回廊を渡り、ワープしてしまえば、そこでは人生未体験で心残りな事が体験出来るのだ。
高見沢は、今一種の達成感を覚えながら、ビルから出て来た。
そして、先程まで入り込んでいた天空の世界を、もう一度見上げ直してみるのだった。
そこには、暮れなずむ夕景の中で、駅のホームから発見した時と同じく、紫の光をぼやっと今も放ち続けているビルの夜景がある。
今宵の非日常的な究極体験、それは充分過ぎるくらい高見沢の脳芯にポジティブな刺激を与えてくれた。
そして、生命力をも蘇らせてくれたのだ。
高見沢一郎、今、少し足早に駅に向かって歩き出している。
それは、明日からまた始まる新たなサラリーマン人生のドラマ、それに乗り遅れないよう急いでいるかのようにも見える。
そして、こんな蘇生への踏み出しの場面では、定番セリフが口を突いて飛び出して来るのだ。
「明日からまた元気、イッチョ出すか!」
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊