いまどき(現時)物語
車の通る駐車場通路に、最近鉄製の金網状のメッシュがよく敷かれてある。
もちろん車の重量に耐えるだけの構造物となっている。
そして網となっている隙間(すきま)は、ちょうどカードが通るだけの間隙が開いているのだ。
「犯人は、この下の三階にいるという事か、
隙間の好きなヤツだとは認識してたけれど、こんな隙間には気付かなかったよなあ …
そうだ浮舟、いいか、もうちょっと待ってからカードをメッシュの隙間から落としくれ、
今から俺は三階へ行って、犯人をつきとめて来るから」
「高見沢さん、わかったわ、気を付けてね」
高見沢は急いで三階の駐車場へと走った。
しかし残念ながら、高見沢が三階のH5に辿り着いた時には、人っ子一人いない状況だった。
「ああ、遂に犯人にやられてしまったか」とブツブツ言いながら、四階で待つ浮舟のところへと戻って来た。
「浮舟、すまない、犯人と接触する事が出来なかったよ」
「まっ良いのですよ、ご苦労様でした、高見沢さんが無事だったので、それに、口座名義人は未だ朝霧だし、朝霧からはカードの引渡しの許可はもらっているし、
だけど犯人は、やっぱりかなりの悪よね」
浮舟は犯人の狡猾さに音を上げている。
また高見沢は、犯人が面を割らない事への執念、その深さに寒気がする。
だが、こういう時は、凝らずに気楽に気を持った方が良いというのが、高見沢の流儀。
「そうだね、浮舟、犯人との出会いは果たせなかったが、今からその残念会でもするか、さあ、ここのモールのお好み焼きでも食べて帰ろう」
浮舟は、こんな高見沢の庶民的な提案にほっと肩の荷を下ろした。
「お好み焼き、私、大好きなのよ、平安時代にこんな食べ物があったら、
もっとイージーに幸せになれていたかもね、御主人様から是非ご馳走になりたいわ」
「イカかブタかミックスか? 何枚食べてくれても良いよ」
高見沢も浮舟も、「もう終わってしまった事だから、仕方ないか」と緊張の糸を緩めている。
しかし、この三ヶ月後に、
とてつもなく恐ろしい事態が発生する事など、二人とも思いも至らなかったのだった。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊