いまどき(現時)物語
高見沢が到着した所は〈死に番号〉、すなわち42階。
日本の高層ビルでは縁起を担ぎ、永久欠番が一般的。
そんな42階が、このビルには存在していたのだ。
「遂にゲットしたぞ!」
高見沢は年甲斐もなく一人大騒ぎ。
誰も辿り着けそうにもないこんな謎めいた最上階に、高見沢はおもむろに降り立ったのだ。
そこに出現したフロアーは、霞が掛かったようにピンボケ状態。
「これは一体どういう空間なんかなあ、まるで洛陽の春霞の中へ迷い込んだようなもんだよ、
しかしどうしようか、恐くなって来たなあ、もう帰ろうかなあ … いや折角だし、ちょっと探検してみるか」と恐る恐る歩き出した。
そして、進むにつれて空間全体がよりパープルな色調へと深みを増して行く。
高見沢はその原因が何なのか、直ぐに理解出来た。
通路両側に灯籠が間断なく配置され、いくつもの蝋燭が灯されている。
そして、それらが見事に紫の光を放っているのだ。
「遠景で見たあの色気な輝きの発光源は、ここにあったのか、遂に俺は辿り着いたぞ」
今、高見沢は世俗的な世界から解き放たれて、神懸り的なパープルの空間に身を置いている。
そんな気高き場に偶然にも侵入し、厳粛な気分に包まれている。
「おっおー、ここは神か魔王が宿る雲上の世界か」と感ずるままにゆっくりと歩み続けた。
すると、面前に古めかしい門構えが現れたのだ。
「何でこんなモダンな高層ビルの最上階に、古式豊かな門があるんだよ、
えっひょっとしたら、ここは悩み多きサラリーマンの駆け込み寺か?
それともセクハラから逃げて来るオフィス・レディー達の尼寺なのか?」
高見沢は適当な想像を巡らしている。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊