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クレイジィ ライフ

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episode1 未明の空にツキはない




「シット!!」
雨が止まぬ未明の街中に、罵倒が吐き出された。

『今日の相手は気にいるんじゃないかと思うんじゃ、カイナ』 
「どこがだ、あのモウロクジジィ」
紹介人の干乾びた顔、枯れる寸前の枝のような手を思い出しながら、カイナは愚痴を零す。
今日の相手はハズレだった。
強引なところはまあ好みの範疇だが、最低限のマナーというものがまるでなかった。
おかげでこちらは煮え切らず、最終的に相手を殴り倒して昏倒させた。
しかしそれは十分に相手を満足させてからの話である。それまで身動きも取れない、無理やり押さえつけられた酷い状態だったのだ。
服で覆ったあちこちに痣ができていた。それくらいならまだ我慢できるとカイナは歯ぎしりを零す。絶えず続く激痛と焼かれるような熱を発する傷に、心の底からうんざりした。
極めつけに部屋に置いてあった酒を帰りがけにやけくそ気味に呷って、吐いた。
なんだこの酒! とか思ってアルコール度数をみたら軽く60を超えていた。なんでスピリッツがこんなところに転がっているんだ。ナニやらせる気だったのかと考えて馬鹿馬鹿しくなり酒を叩き割った。

止むことのない雨が身体全体に絡みつくが、傘などないし差す気にもなれない。視界を邪魔する髪を掻きあげて後ろに流し、早々と路地を歩く。

そろそろ夜明けに近い時間帯なのに、分厚い雲の所為か、明日の明かりはまだ届かない。襟を立てて進んでいくと珍しく人の姿が見えた。こちらから見ても、相手が随分疲労しているのが見て取れた。
普段なら見向きもしないだろう通行人の顔を見たのが、運のつきだったのかもしれない。
反射的に取り出したバタフライナイフを構えて斬りかかると、相手は寸前で刃を躱した。

雨に短い黒髪を濡らした透は辟易しきったように息を吐く。
「何も今会わなくていいと思わないか」
「ああ、心底思うね!」
避けられた刃を翻し、再び喉元を狙って一閃する。避けた透は路地裏に落ちていた棒―おそらく引退した物干し竿と思われるものを拾い上げて構える。ナイフを構えたカイナはゆらりと笑う。

「今日はあの変な白木は持ってないんだな。さあて、前回の分もまとめてオシオキさせて貰おうか」
「なあ今度にしないか」
「今度とかはない!」

カイナが飛び掛かりと透は棒で応戦するが、反応はカイナの方が一瞬速かった。透の一撃を躱したカイナは一気に間合いを詰めて、ナイフを閃いた。
身を引いた透の頬から血が吹き出す。一端距離をとり、血に染まったナイフをべろりと舐める。カイナが相手の様子を窺うも、透は顔色ひとつ変えず、垂れ流れる血を拭う様子もない。背筋に拭えぬ奇妙な違和感を覚えて、カイナは僅かに眉をよせる。
「おまえ何者だ」
「特筆すべきところなんてない、ただの一学生だ」
「嘘つけ!」
下段から突進し、ナイフを突き出すも透は身を翻して全て避けた。何度かの接触で距離間を確認できた透は、物干し竿の長さを調節して握りこむ。攻めから守りに入るカイナの一瞬の時を見極め、透は一気に攻めに転じた。急な接近に隙を生んでしまったカイナの鳩尾に一撃が叩きつけられる。
「がッ!」
絞り出された声で呻いたカイナの身体は傍のゴミ捨て場に倒れこんだ。しばらく相手の出方を見ていた透は、起き上がる気配がないのを確認すると緊張をといた。棒を手に持ったまま少し近づいた透は僅かに眉をひそめた。

作品名:クレイジィ ライフ 作家名:ヨル