真夏の逃避行
唐突に爆発音が轟き、山々に木霊した。抱き合っていた二人は、驚いて離れた。音のした方向には、平らな細い道が延びていた。
二人は走った。また、大きなどーんという音がした。暫く行くと、それが木立をシルエットにして煌めいた。打ち上げ花火だった。
狭い展望台に、ベンチがひとつ。そこに二人は肩を並べた。
手前に低い丘陵があるのが判った。その奥に、花火の多彩な輝きを宿し、湖が広がっていた。
「最高の温泉のあとで、最高の花火じゃん。常日頃の行いの良さを、神様が見守ってくださっていたのね」
華麗なスターマインが夜空を彩り、心地よい風が二人のほほを撫ぜた。
「神よ。我らの前途を、この美しい花火のように、煌めかせたまえ」
そう云ったあと、早川は胸に疼くものを感じながら、はるかを抱きしめてくちづけをした。その続きは自分も入浴してからしようと、彼は思った。
「……あのお金も、神様からのプレゼントなの?」
「公共の電波に関わる尊い仕事を任されながら、そんな卑しい考えは似合いませぬぞ姫」
「……せっかくの姫というお言葉なれど、わらわは、もよおしてきたぞ」