「愛されたい」 第二章 秘密
「このお店はね仕事帰りに時々会社の皆さんと寄るのよ。みんな子育て終わってるから、気楽に夕飯付き合ってくれるの。私は一人身だから気にならないんだけどね。智子さんはまだ夕飯の支度しないといけなかったわよね?」
「ええ、そうなんです。主人は時間通りに帰ってきますから、7時には食べ始めるんです。娘は時々バイトで遅くなって食べない時がありますが、息子と主人とはほぼ毎日一緒に食べるんですよ」
「そうなの、でもそれが本当なのよね・・・バラバラに食事したり、外食で済ませたりするのはいけないのよね。家族ってそういう機会があるから繋がっているって感じられるんですものね」
「はい、そう思います。たまには外食もしたいって思いますけど、なんだか落ち着かなくてやはり家で食べるほうがいいんですよね。文子さんは毎日外食されるんですか?」
「そんなことはないよ。外食は週に一回ぐらいかな。お酒飲んで帰れないから、乗せてもらえる時しか外食はしないの」
「毎日飲んでいるっていうことですか?」
「そうよ、ご主人だってそうじゃないの?」
「まあ、そうですが・・・」
「女性だって同じよ。主人が生きていたときは毎晩晩酌に付き合っていたから、その癖が抜けないの。あなたは飲まないの?」
「はい、飲めなんです。コップ半分ぐらいで頭が痛くなってしまうものですから。主人はビール一本毎日飲みますね」
「残念ね、ご一緒に飲みたいって思ったのに」
「すみません、期待に添えなくて」
「謝ることなんかないのよ。だったら美味しいもの食べればいいんだから、そうしましょう」
「是非連れて行ってください。食べることは得意ですから」
「ハハハ・・・それじゃ太るわよ。そうそう、エアロビに行かないとね。決めた?」
「決めました。主人には内緒ですが、ばれたら開き直りますから、大丈夫です」
「毎週木曜日なのよ。午前中の90分間。明日が無理なら来週でもいいから一度体験してみてよ。先生に話しておくから」
「じゃあ来週の木曜日に伺います。準備はどうすればいいのですか?」
「スポーツウェアーがあればいいけど、なければジャージとTシャツで構わないわよ」
「解りました。用意してゆきます」
文子とのランチが終わって、帰り道でショッピングモールに立ち寄り、ウェアーを買った。やる気十分な智子がいた。
横井は昼の休憩時間に文子の傍に行って、智子の事を聞いた。
「お疲れ様でした。研修会は楽しまれましたか?」
「ええ、とても楽しかったですよ。ありがとうございます」
「そういえば、ホテルのロビーでお話した楠本さんという女性の方が文子さんとお話されたと言われていましたよ」
「あら、課長隅に置けませんね。いけませんわよ、お誘いになっては」
「そんなんじゃないよ。偶然二度出会ったから声掛けただけだよ。そうしたら、あなたのお名前が出たからビックリしただけ」
「ならいいですけど。智子さんはこれから仲良くしてゆく方だから、変なことしないで下さいね」
「信用がないなあ、おれは。文子さんが思っているような男じゃないですよ」
「そうしておきましょう。話はそれだけですか?」
「いや、違うんだ。来月になるけど新製品の内覧会があるんだけど、何人かこの部署から出て欲しいんだよ。文子さんに人選を任せるから、二三日のうちに名簿出して欲しい。5人ぐらいにしようか、あなたは必ず出てね」
「はい、解りました。責任重大ね、私で勤まるのかしら?」
「一番ベテランだから、皆さんから文句は出ないと思いますよ」
「そうだといいのですが」
文子のいる職場には100人ほどのパートが働いていた。仕事はスーパーなどに卸している惣菜製品の製造だ。早朝から夕方まで二交代でシフトを組んで勤務していた。文子が選んだ4人と自分の合わせて5人が内覧会に出席することになった。
約束した木曜日がやってきた。滝の水公園で文子と待ち合わせをして、緑区にある施設に智子の車で向かった。新しいトレーニングウェアーに着替えて、みんなに紹介され体験レッスンが始まった。
普段運動をしない智子にとって、最初の10分間ぐらいでもう息が上がってきた。講師は傍に来て、「無理しないで下さい。お休みされても構いませんから、最後まで出来るようにしましょうね」そう声を掛けてくれた。何とか食いついて頑張って、終了の時間を迎えた。
「どう、なかなか大変でしょ?でもやっていると気持ちよく出来るようになるから、心配は要らないよ」
「はい・・・そう・・・なりたい・・・です」そう言うのが精一杯の智子だった。
汗を落としに文子と一緒にシャワーを浴びた。智子は自分の方が15歳も若いのにお腹やお尻の辺りが文子より弛んでいることに気付いた。エアロビの効果なんだろうと、自分も頑張れる気がした。
「さっぱりしたでしょ?この後で飲んだり食べたりしちゃいけないのよね。さらに太っちゃうから。お水かポカリだけにしないとね」
「そうなんですか?それもきついですね」
「何のためにやっているのかといえば・・・ダイエットでしょ。その次が体力強化よね。そう言えばね、下半身の筋力が付くから、夫婦仲も良くなるんですって。解る?」
「よく解りませんが・・・どういうことなんですか?」
「まあ・・・カマトトぶって」
「ぶってなんかいませんよ。聞かせてください!」
「恥ずかしくならないでよ、はっきりと言うからね」
「大丈夫です」
智子は文子から具体的なことを聞かされた。しかし今の自分には必要ないと寂しく感じた。
「そういうことでしたの・・・」
「あら、関心がないような言い方するのね」
「ええ・・・そういうことがないからです」
「ほんとう?45歳でしょ・・・考えられないけど、そうなの?」
「主人は結婚したときから淡白な人で・・・下の子供が中学に入った頃からなくなってしまいました」
「聞いてみるものね・・・そうだったの。あなたは寂しいって感じているの?」
「・・・文子さんだけに話します。絶対に誰にも言わないで下さいね」
「そんな女に見える?私が」
「すみません。勇気のいる発言なので、そう言ってしまいました」
「そうだったわね。いいのよ、安心して話して欲しいわ」
「はい、寂しいです。もうこのまま死ぬまで経験出来ないのかと考えると・・・離婚してしまいたいって思うことがあります」
「そんなに思いつめているのね。かわいそう・・・でも、離婚はいけないよ。ご主人に頑張ってもらえるようにすることを考えましょう。協力するから・・・ね?」
文子の言葉は嬉しかった。でも、きっと無理だろうと智子は思っていた。
軽く昼食を採りながら二人は話の続きをしていた。
「こんな事聞いて失礼だと思うのですが、文子さんは寂しく感じられないのですか?」
「ひとり暮らしだからかしら?それとも、男性が居ないからっていう事かしら?」
「聞き方が悪かったですね。すみません。つまり私と同じ思いをされているんじゃないのかなあって、感じたものですから」
「いいのよ、はっきりと言ってくれて。男性とそういう事がないと思ってらっしゃるのね?」
「違うんですか?まだまだお若いしお綺麗だから素敵な方が居られるのですね」
「ええ、そうなんです。主人は時間通りに帰ってきますから、7時には食べ始めるんです。娘は時々バイトで遅くなって食べない時がありますが、息子と主人とはほぼ毎日一緒に食べるんですよ」
「そうなの、でもそれが本当なのよね・・・バラバラに食事したり、外食で済ませたりするのはいけないのよね。家族ってそういう機会があるから繋がっているって感じられるんですものね」
「はい、そう思います。たまには外食もしたいって思いますけど、なんだか落ち着かなくてやはり家で食べるほうがいいんですよね。文子さんは毎日外食されるんですか?」
「そんなことはないよ。外食は週に一回ぐらいかな。お酒飲んで帰れないから、乗せてもらえる時しか外食はしないの」
「毎日飲んでいるっていうことですか?」
「そうよ、ご主人だってそうじゃないの?」
「まあ、そうですが・・・」
「女性だって同じよ。主人が生きていたときは毎晩晩酌に付き合っていたから、その癖が抜けないの。あなたは飲まないの?」
「はい、飲めなんです。コップ半分ぐらいで頭が痛くなってしまうものですから。主人はビール一本毎日飲みますね」
「残念ね、ご一緒に飲みたいって思ったのに」
「すみません、期待に添えなくて」
「謝ることなんかないのよ。だったら美味しいもの食べればいいんだから、そうしましょう」
「是非連れて行ってください。食べることは得意ですから」
「ハハハ・・・それじゃ太るわよ。そうそう、エアロビに行かないとね。決めた?」
「決めました。主人には内緒ですが、ばれたら開き直りますから、大丈夫です」
「毎週木曜日なのよ。午前中の90分間。明日が無理なら来週でもいいから一度体験してみてよ。先生に話しておくから」
「じゃあ来週の木曜日に伺います。準備はどうすればいいのですか?」
「スポーツウェアーがあればいいけど、なければジャージとTシャツで構わないわよ」
「解りました。用意してゆきます」
文子とのランチが終わって、帰り道でショッピングモールに立ち寄り、ウェアーを買った。やる気十分な智子がいた。
横井は昼の休憩時間に文子の傍に行って、智子の事を聞いた。
「お疲れ様でした。研修会は楽しまれましたか?」
「ええ、とても楽しかったですよ。ありがとうございます」
「そういえば、ホテルのロビーでお話した楠本さんという女性の方が文子さんとお話されたと言われていましたよ」
「あら、課長隅に置けませんね。いけませんわよ、お誘いになっては」
「そんなんじゃないよ。偶然二度出会ったから声掛けただけだよ。そうしたら、あなたのお名前が出たからビックリしただけ」
「ならいいですけど。智子さんはこれから仲良くしてゆく方だから、変なことしないで下さいね」
「信用がないなあ、おれは。文子さんが思っているような男じゃないですよ」
「そうしておきましょう。話はそれだけですか?」
「いや、違うんだ。来月になるけど新製品の内覧会があるんだけど、何人かこの部署から出て欲しいんだよ。文子さんに人選を任せるから、二三日のうちに名簿出して欲しい。5人ぐらいにしようか、あなたは必ず出てね」
「はい、解りました。責任重大ね、私で勤まるのかしら?」
「一番ベテランだから、皆さんから文句は出ないと思いますよ」
「そうだといいのですが」
文子のいる職場には100人ほどのパートが働いていた。仕事はスーパーなどに卸している惣菜製品の製造だ。早朝から夕方まで二交代でシフトを組んで勤務していた。文子が選んだ4人と自分の合わせて5人が内覧会に出席することになった。
約束した木曜日がやってきた。滝の水公園で文子と待ち合わせをして、緑区にある施設に智子の車で向かった。新しいトレーニングウェアーに着替えて、みんなに紹介され体験レッスンが始まった。
普段運動をしない智子にとって、最初の10分間ぐらいでもう息が上がってきた。講師は傍に来て、「無理しないで下さい。お休みされても構いませんから、最後まで出来るようにしましょうね」そう声を掛けてくれた。何とか食いついて頑張って、終了の時間を迎えた。
「どう、なかなか大変でしょ?でもやっていると気持ちよく出来るようになるから、心配は要らないよ」
「はい・・・そう・・・なりたい・・・です」そう言うのが精一杯の智子だった。
汗を落としに文子と一緒にシャワーを浴びた。智子は自分の方が15歳も若いのにお腹やお尻の辺りが文子より弛んでいることに気付いた。エアロビの効果なんだろうと、自分も頑張れる気がした。
「さっぱりしたでしょ?この後で飲んだり食べたりしちゃいけないのよね。さらに太っちゃうから。お水かポカリだけにしないとね」
「そうなんですか?それもきついですね」
「何のためにやっているのかといえば・・・ダイエットでしょ。その次が体力強化よね。そう言えばね、下半身の筋力が付くから、夫婦仲も良くなるんですって。解る?」
「よく解りませんが・・・どういうことなんですか?」
「まあ・・・カマトトぶって」
「ぶってなんかいませんよ。聞かせてください!」
「恥ずかしくならないでよ、はっきりと言うからね」
「大丈夫です」
智子は文子から具体的なことを聞かされた。しかし今の自分には必要ないと寂しく感じた。
「そういうことでしたの・・・」
「あら、関心がないような言い方するのね」
「ええ・・・そういうことがないからです」
「ほんとう?45歳でしょ・・・考えられないけど、そうなの?」
「主人は結婚したときから淡白な人で・・・下の子供が中学に入った頃からなくなってしまいました」
「聞いてみるものね・・・そうだったの。あなたは寂しいって感じているの?」
「・・・文子さんだけに話します。絶対に誰にも言わないで下さいね」
「そんな女に見える?私が」
「すみません。勇気のいる発言なので、そう言ってしまいました」
「そうだったわね。いいのよ、安心して話して欲しいわ」
「はい、寂しいです。もうこのまま死ぬまで経験出来ないのかと考えると・・・離婚してしまいたいって思うことがあります」
「そんなに思いつめているのね。かわいそう・・・でも、離婚はいけないよ。ご主人に頑張ってもらえるようにすることを考えましょう。協力するから・・・ね?」
文子の言葉は嬉しかった。でも、きっと無理だろうと智子は思っていた。
軽く昼食を採りながら二人は話の続きをしていた。
「こんな事聞いて失礼だと思うのですが、文子さんは寂しく感じられないのですか?」
「ひとり暮らしだからかしら?それとも、男性が居ないからっていう事かしら?」
「聞き方が悪かったですね。すみません。つまり私と同じ思いをされているんじゃないのかなあって、感じたものですから」
「いいのよ、はっきりと言ってくれて。男性とそういう事がないと思ってらっしゃるのね?」
「違うんですか?まだまだお若いしお綺麗だから素敵な方が居られるのですね」
作品名:「愛されたい」 第二章 秘密 作家名:てっしゅう