表と裏の狭間には 十話―柊家の年末年始―
俺のためだけに。
頑張ってきて。
俺はお前に。
救われて。
本当に。
ねぇ。
雫。
「よくやってくれたよ、雫。今年一年。俺はお前のお陰で生きてこれた。ありがとう。心の底から、ありがとう。そして。お前さえよければ。」
そこで、除夜の鐘が終わり。
テレビのカウントダウンが、零になる。
世界の歴史が、また一つ。動く。
暦が、一新される。
世界が歓喜に湧く、待ちに待ったこの瞬間。
俺も、待ち望んでいた。
激動だった年が終わり、新たな年が始まったこの瞬間。
「お前さえよければ、今年もよろしくやってくれないかな?」
雫は。泣いていた顔を上げ。
涙を拭いて。
「勿論だよっ!今年もよろしくね。お兄ちゃんっ!」
笑顔で。
心のつかえが取れたような、自然で。明るい笑顔で。
そう言ってくれた。
翌日の朝。
じゃない。
その朝。
………元日ってのはどうしても時間の感覚がおかしくなる。
一度寝て起きたら次の日って言いたくなるけど。
それだと一月二日になってしまう。
それに、この日だけは『昨日=去年』なわけで。
混乱するなぁ。本当に。
「お兄ちゃんっ!」
リビングに行くと、そこには既に雫がいて。
俺と、雫は、示し合わせたかのように、カーペットに正座する。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
「おめでとう。こちらこそ、今年もよろしく。」
改めて、新年の挨拶をする。
雫は、ちょっと照れ臭そうに頬を染めてはにかむ。
昨夜のことを気にしているみたいだ。
それは俺も同じだったので、気を逸らすために、用意していたものを渡す。
「ほら、雫。お年玉。」
「あ、ありがとう!」
我が家の金銭は基本的に俺が管理している。
だから、お年玉を出すのは、俺の務めだ。
「え?こんなに貰っちゃっていいの!?」
「いいよ。好きに使ってくれ。」
「じゃあじゃあ、明日、すっごい豪勢な晩御飯作っちゃう!」
「それはいいから。自分のことに使ってくれ。」
「あ、お兄ちゃん!お雑煮冷めちゃう!」
「それもそうだな。よし、食べるか。」
「食べたら初詣行こうよ!」
「ん、それもいいな。よし。行くか!」
「わーい!やったぁ!」
そんな感じで。
またいつも通り。
今年もよろしくな、雫。
そして。
今年も、いい年になるといいな。
そう思った。
続く
作品名:表と裏の狭間には 十話―柊家の年末年始― 作家名:零崎