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旅のスケッチ

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川平湾 (1977年9月)



ぎらぎらと照りつける南国の太陽が全身を焦がしていた。

僕は仲間たちと総勢9名で、八重山諸島の中の一つ、石垣島の川平湾沖のフロートの上で、フローティングの真っ最中だった。

朝、弁当とスナック菓子と飲み物に、カセットデッキを担いで漁船に乗り、ここ、川平湾沖のフロートに連れて来てもらった。
同じ漁船が夕方迎えに来るまで、今日は一日中ここで泳いだり、潜ったりして遊ぶ予定だった。

その予定通りに一日が過ぎて行き、やがて、みんな泳ぎ疲れて、フロートの上に寝そべってカセットデッキで音楽を聞きながら、とりとめもなくしゃべっているときだった。

なんお前触れもなく、突然フロートに5~6人のウェットスーツの男たちが上がりこんで来たのだ。

男たちは全員黒っぽいウェットスーツを着込み、タンクを背負っていた。

自分たちが金を払って借りているフロートに勝手に上がりこまれ、僕らは少々むっとした。
仲間の一人が話しかけたが、男たちは誰も何も答えない。
それどころか、男たちは自分の仲間とも、一切会話をせず、ひたすら無言でフロート上で休んでいる。

僕らは薄気味悪くなって、黙って男たちを見つめていた。

やがて男たちは再び海に入り、泳いで去って行った。
方向を見失っていたので、島に向かったのか、さらに沖に向かったのかは、わからなかった。

男たちがいなくなって、ほっとした僕らは、また元の陽気な学生の一団に戻った。
不気味な男たちのことをいつまでも気にかけているには、僕らは若く、やりたいことがたくさんあったから。


旅を終えて東京に戻った後も、あの不気味な男たちのことは、記憶の片隅にはあったものの、ほとんど思い出すことも無かった。


追記

小泉元首相が北朝鮮を訪問し、金日成と会談したのは2002年9月17日のことだった。
この訪問により、北朝鮮による日本人拉致が明らかになった。

僕らが不気味な男たちと出あった1977年には、9月19日に久米裕さん、11月15日に横田めぐみさんが拉致されている。

僕は、あの不気味な男たちが北朝鮮の工作員の一団だったのではないかという疑いを、今でも捨てきれない。
新潟や鳥取の海岸にウェットスーツの一団が上陸したらものすごく怪しいが、石垣島の海岸であれば、全然怪しくないのだ。
作品名:旅のスケッチ 作家名:sirius2014