夏の怪物は何を思う
「――それってさ、夏の怪物だよ」
いつもの如く友人のMが呼びもしないのに私の部屋に現われ、自慢のオカルトウンチクを披露する。口を滑らせ、思わず少し前に起こったことを話してしまったのが災いし、あまり楽しくない話に付き合うことになってしまった。
夏の怪物とは。この街に最近流れ始めた都市伝説の類で、夏になったらあらゆる所、時間に現われる謎の化け物の怪談である。
「まあ、これといって悪さをするモノではないけれど、モノノケの類に分類されるものには変わりないだろうね。――で、君はそれを本当に見たの?」
Mはオカルト話や怪談の類を収集するのが趣味のクセして、その存在には懐疑的な立場を取っている。「好きなことと肯定することは違う」と彼は言うが、やはり意味が分からない。
「見たよ。間違えようがなかったね」
「お酒も飲んでない?」
「飲んでない」
この辺もムカつく所だ。とにかく疑う。猜疑心の塊のような男で、口調に性格の嫌らしさが見え隠れするからムカついてくるのだ。
「まあ、君が見たかどうかは問題じゃないか。えーっと、ここで問題なのはその夏の怪物がどーいう因果で君の前の現われたか、というところかな」
「どういうこと? 夏の怪物って因縁とかがないと化けて出ないものなの?」
「因縁じゃなくて因果。どうやって君は夏の化け物を見ることになったのか、幽霊を見るメカニズムについてさ」
「……?」
メカニズムも何も、幽霊なんて科学的に説明できるもんじゃないだろうに。それを解明できるなんて、ありえない。
「人の目で見た物ってのは目の中ではまだ現実そのものなんだ。だけど、頭にその情報が転送されると、それはいとも簡単に脳によって改変されてしまう。それは、自然界で生き残るには重要なファクターだ。中途半端な情報を補完して、即行動に起こす為の経験則というわけさ。
――その結果、見たものはその人だけの情報になってしまうんだ。人は目で物を見て、現実は頭で見る。ふむ、中々詩的な表現だな……」
「知るかよ……。で、何さ。つまりお前さんが言いたいのは、この目で見た物が気のせい、脳みそが勝手に作り出した妄想だっていいのかな?」
「勝手に作り出した、っていうのは語弊があるかな。物理的に見たものを、その時頭にあった何かで補完した、ってところかな。逆説的には、この理論は幽霊の証明にも繋がるかも知れないんだ」
ワクワクとした、少年のような目でテンションを上げるM。興奮した大人ってこんなにウザかったのか。
「前述のとおり、脳みそは見たモノを補完してしまうという厄介な特性を持っている。しかし、この特性はある種の情報を受け取った時に、ある感覚的な情報に変換される」
「それが幽霊の正体だっていうの?」
「そう仮説する人もいるってことさ。言うなれば、その特殊な情報が?幽霊?そのもので、その情報を受け取る器官、感覚が?霊感?ってところかな。霊感があるなしの違いは、その感覚器が人より優れているかどうか、と言ったところかな」
そういって、どっかの受け入りをさも自分の意見かのように披露するMを横目に、私はあの広場をもう一度想う。