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厨二病は、結局恋愛の欠如に対する代償なのか。常に議論が分かれるところだと思う。恋愛という究極の世界肯定を得られないがための、反発が極端な形をとったものだという説もあれば、それとは全く別次元の問題だという説もある。
確かなのは僕には彼女も彼氏もいなかった。もちろん告白だなんて。思いもしなかったし、あの彼女ならもっとだろう。許せなかったはずだ、誰かを好きになるということ自体が、誰かに好きになられるということ自体が。現実はそんなに私たちには優しくなんてないはずだから。
「だから、笑ってよ」
笑顔がそこにあった。優しい、男の子の笑顔。
私の瞳が揺れるのがわかる、心臓の鼓動が高まるのを感じる。
単純だ。こんなのは、単なる生理現象だ。旧い脳の反応に過ぎない。精神とは無関係だ。と、言葉と言葉を重ねて否定しても。
鼓動は、早まる。
どうしよう。これが、"きゅん"ってなるってことなの。馬鹿馬鹿しいってわかっていても、でも、どうしよう。胸の奥が熱くなる。まるで、体中の熱が集まって、小さくて、控えめな膨らみしかない、この胸がまるで風船みたいに膨張する感じだ。どこまでも、無限に凝縮する熱と広がる思い。
いいんだろうか。目の前の、今を肯定してしまっても。この心の動きを信じてしまっても。肉の脈動を肯定しても。
「一緒に帰ろうよ。もう、ここには誰もいないよ」
と、がらんどうの教室を見渡し彼は言う。
そう、空っぽだ。誰かが、いたはずの、教室。なにもない空っぽの場所だ。
だったら、出て行ってしまえばいい。外へ、街へ、世界へ。彼が連れて行ってくれる。
いいんだろう、信じても。世界がどうあっても、きっと彼は笑いかけてくれる。だったらいい。それが私のあるがままの世界だ。だから、微笑み返す。わかってくれたことに、認めてくれたことに、信じてくれることに、心からのありがとうの気持ちを込めて。
「そうね、もう遅いわ。一緒に帰りましょう」
そうして、二人並んで、教室を出る。
後ろ手で、ドアを閉めようとした一瞬。何かに呼ばれたような、背中をつかまれたような感覚が私を押しとどめる。振り返らせる。
眼の向こうは、ただの空き部屋だ。がらんとした。なにもない部屋。
「どうしたー。早く行こうよー」
気がつくと階段の手前で、彼が呼んでいる。
「うん!なんでもないよー。今行くー」
急いで教室のドアを閉め、小走りで彼を追う。ふと、廊下の窓から空が視界に映る。いつの間にか雨は止んだようだ。重い灰色の雲の間から、透明な光が降り注ぐ。まるで二人の始まりを天使が祝福してるみたいに。
そうだ、雨が上がったのなら、ちょっと寄り道していこうか。そう、最近評判のケーキ屋さんにでも。