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表と裏の狭間には 八話―運命の文化祭―

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十月。
この光坂学園では、十月に文化祭がある。
文化祭。
高校生なら、誰もが心躍るイベントだ。
クラスで一丸となって催し物の準備をし、必然的に友情が深まるイベント。
中には、これがきっかけで男女交際を始める者もいるだろう。
そんな、文化祭である。

「今度は大丈夫だろうな?」
俺は、配られたパンフレットを、穴が開くほどよく見ていた。
何か異常な点はないか、チェックしていたのだ。
まあ、見たところ特に異常な点はない。
文化祭の開催日は金土日の三日間。
その間、開会式から閉会式まで、校庭の一角に設えられたステージでは、常に何らかのイベントをやっているらしい。
オープニングセレモニーから始まって、申請した部活やグループが何らかの何かを行うわけだ。
他には各教室や野外の屋台で様々なものを販売・展示したりする。
つまり普通の文化祭だ。
……間違っても視聴覚室でどこかの誰かが撮った『未来から来た戦うウェイトレスが悪の魔女と戦う映画』なんてものを上映するわけではない。
そして校門でバニーガールがそんな映画の宣伝を強行するわけでもない。
というかしないで欲しい。
生憎、そんなネタ的発想で文化祭を引っ掻き回しそうな人材に一人ほど心当たりがあるのだが(うちの『部活』のメンバーのオタクでギャルゲーマニアな彼だ)、その可能性は精神衛生上の都合により黙殺するほかないだろう。
ゆり曰く、あいつはこの学園の『そういう』連中を掌握しているのだとか。
要するに実行するだけの力はあるわけだ。
まあ、俺がどうこうできる問題じゃないしな。
それよりもまず、自分のクラスの問題に目を向けるべきだろう。
現在は放課後。
文化祭を来週に控え、現在はクラスで準備を進めているところだ。
蓮華と、二人で。
……………。
雅蓮華。黒の長髪、表情、雰囲気、どれをとっても『お嬢様』な俺の友人である。
『こちら側』では最も親しい友人といっていいだろう。
学校では大抵一緒に行動していたりする。
が、彼女とかいうわけでもない。
見た目はお嬢様だが、性格は意外と『普通の女子』である。
制服をちょっぴり改造してみたり、女友達と喫茶店で喋ったり、友達に付き合って夜までカラオケで騒いだりしている、普通の女子だ。
……………。
現実逃避は止めよう。
何故か、俺と蓮華は、二人きりで作業していた。
何故だ。
気がついたら、下校時刻はまだ大分先なのに、蓮華以外全員帰っていたのだ。
…………なんでだろう。
「紫苑君?どうしたんですか?」
「いや、なんでもないよ。」
「皆さんどうしてしまったんでしょうね。用事でもあったんですかねぇ………。」
「用事があるというよりは、なんか意思的なものを感じるんだが………。」
「皆がサボったりするわけないでしょう。紫苑君たら冗談が上手なんですから。」
「まあ、だといいんだけどね………。」
会話が、続かない。
「蓮華は、最近どう?」
「はい。お友達とも上手く行っていますし、紫苑君とも仲良くさせていただいて、もう最高です!」
「そう。よかったね。」
会話が、続かない。
どういうことだ。
普段はいくらでも無駄話を繰り広げられるというのに、こういう『いかにも』な状況に放り込まれた途端に会話が出来ない。
それは蓮華も同じようで、なんだか頬を染めているように見える。
いや、これは夕日のせいかな?
夕日が、彼女の姿を赤い光で彩る。
とても、綺麗だ。
「し、紫苑君?私がどうかしましたか?」
「え!?い、いや、なんでもないよ。それより作業しよう作業!」
うっかり見蕩れてしまった。
こうしてみると、蓮華は綺麗だよな。
気配とかも相まって、幻想的な雰囲気すら漂ってくる。
あれ?
「蓮華?熱でもある?」
「な、なんですか!?ね、熱!?」
「うん、顔赤いよ?大丈夫?」
「だ、だだ大丈夫です!」
「そう?体調悪いようなら保健室行く?作業は俺がやっとくし。」
「ほほほほほ保健室!?」
「ああ、この時間だと帰ったほうがいいのか。そうだな。体調悪いようなら帰りなよ。」
「…(うぅ…放課後の教室、二人っきり、保健室、あぁ…こんな妄想に耽る前に作業を…)。」
「ちょっと危ねぇ!?」
蓮華が何かをぶつぶつ言いながら作業していると、カッターを滑らせた。
「ひゃっ!?い、痛い………。」
「ったく……お前本当にどうしたんだ?ちょっと見せてみろ。」
蓮華の手をとって傷の状態を確認する。
なんか蓮華の赤面度が一気に上昇したように見えるんだが。
こいつ本当に大丈夫か?
マジで病院行ったほうがいいんじゃないか?
それよりも傷の状態だ。
「……結構浅いな。これなら水で洗って絆創膏しておけば大丈夫だよ。確かこの辺に……。」
鞄の中を探って絆創膏を取り出す。
「ほれ。洗って貼ってこい。ついでに頭も冷やして来い。」
「は、はい。じゃ、ちょっと行ってきますね。」
「行ってらっしゃい。」

「ふぅ………どきどきしました。」
私は水道で傷口を洗いながら、呟きを漏らす。
周りに人がいないか、きちんと確認してから。
「本当に、クラスの人たちどうしちゃったんでしょうね。皆一斉にいなくなるなんて。」
本当にどうしたんだろう?
「それにしても、紫苑君と二人っきりです……。」
紫苑君………………。
普段は紫苑君といても普通に出来ているのに、こうして『二人きり』になると、どうしてもドキドキしちゃう。
ドキドキして、つい慌てちゃう。
紫苑君に見られてた時なんて、ああ………。
思い出しただけで、また心臓が………。
本当に、紫苑君に再会してからの私はおかしい。
前は普通のお友達だったのに。
今は、こんなにも胸が苦しい。
本当にどうしちゃったんだろう。
そんな事を考えながら、紫苑君からの連想で、もう一人の人物が頭の中に浮かぶ。
「雫ちゃん、元気かな………。」
昔一緒に遊んだ少女。
紫苑君が大好きな彼の妹。
私の気持ちが、『それ』だったとしたら、彼女はどういう反応をするのかな。
そんな事を考えながら、治療を終えた私は教室に戻っていった。

翌日。
俺は『有閑倶楽部』の部室を訪れていた。
「で、このクラブは何もしないのか?」
「するわけないじゃない面倒くさい。」
「雫も来ると思うんだが……。」
「今年は何もしないわよ。来年は何かしようと思うけど。」
だから今年はクラスの行事に専念しなさい、とゆりは言う。
「お前らのクラスは何するんだ?」
「僕のクラスはサブカルチャー関連の展示会っすね。僕の監修によって超絶ハイスペック展示が可能になるっすよ。」
「頼むから高校生の領分を逸脱した展示は止めてくれよ。」
「そこはちゃんと私がストップかけるの。こういう時兄様に歯止めをかけるのは私の仕事なの。」
「そうか。」
こいつもこいつで『百合展示』とか始めそうで怖いんだが……。
「俺のクラスは普通に模擬店だな。」
「へー。なにすんの?」
「賢者の石即売会。」
「お前ふざけんなよ!?」
どうして錬金術師の悲願であるアイテムを即売すんの!?
何!?錬金術でも推奨してるのこいつのクラス!?
「あとは範馬勇二郎VS哀川潤の決闘ショーとか。」
「学校どころか街単位で灰燼に帰しそうなカードですね!!」
地上最強の生物と人類最強をぶつけるんじゃねぇよ。