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てっしゅう
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「不思議な夏」 第十六章~第十八章

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-----第十六章 命の引継ぎ-----


「志野さん、私がこれから話すことは自分の心の中にだけ留めておいて下さいね。小百合さんに絶対に話しちゃダメよ」
「先生、わかりました。大丈夫です」
「そう、良かった。あなたと小百合さんは時を経ていても同じ遺伝子を持ち合わせているかも知れないって思ったの」
「遺伝子?なんですか、先生」
「そうね、同じからだの仕組みっていう事かしら・・・」
「同じからだの仕組み・・・そうかも知れません」
「医学的には調べて見ないとはっきりとは言えないけど、きっと適合するような気がしているの。そうあって欲しいともね」

貴雄は理香が何を言おうとしているのかピンと来た。
「理香先生、志野の肝臓を移植すると言うお話ですか?」
「あらまあ急に結論から聞くのね・・・心配でしょうけど、他に方法は無いわよ。残された最後の治療があるとしたら、適合する事が前提だけどそれしかないの」
「志野の身体を危険に晒すことはできません!まだ16歳ですよ」
「焦らないで聞いて・・・貴雄さん、お願いするわ」
志野は貴雄の興奮した様子に驚きながら自分は比較的冷静に理香に対して言葉を続けた。

「先生、何を聞いても驚きませんから先生の仰る最後の治療を聞かせてください」
「志野!聞かなくていいよ。無謀な話だから・・・」
「貴雄さん、あなたらしくないですよ。いつも冷静なのに、どうされたの?」
「・・・お前を失いたくないんだよ。俺の全てなんだから・・・」
宮前は少し時期が早すぎたと反省したが、いまさら撤回できないから、続けて話をした。

「貴雄さん、心配するからそんな言い方しないでよ。志野さんの言うとおり変よ!落ち着いて話しましょう」
「解ってるよ!言われなくても・・・先生は医者として簡単に話すけど、ボクと志野の気持ちになったらどういう事か解るでしょう?」
「簡単になんか思ってないわよ。医師として最善策を考えたら、移植ありきって思ったから言っただけ。それにあなたが考えているより、提供者側の安全性は高いのよ。きちんと志野さんに説明するから結論は待ってて」

宮前は志野にどういう事か詳しく話し始めた。

一通り聞き終えた志野は、この時代の医術が素晴らしく進化していることに感動さえ覚えていた。治療だけではなく、体の中を入れ替える事が出来るなんて・・・夢にも考えなかったことだった。

「先生、では私と母の形が合えば肝臓を提供できるという事なのですね?」
「そうよ、あくまでも移植に必要な適合が無ければ無理なの」
「解りました。すぐに調べてください。貴雄さん、母の命を救えるのなら、多少体が不自由になっても構いません。この世界に来た自分の使命のようなものを感じるからです。志野は喜んで引き受けますので、心配なさらないで先生にお任せしましょう」
「志野・・・心配するな、は無理だよ。まだ若いその身体を大きく傷つけるのは痛ましいよ。決めたら引かないお前のことだから何を言ってもだめだろうけど、少しでも不安になったら辞めるんだよ」
「ありがとうございます。いつも私のわがままを聞いてくださって感謝に絶えません。心よりお慕い申しあげております」

宮前は安藤と相談の上、志野の適合検査をすぐに受けさせて、結果がよければ、手術先の信州医大への転送を速やかに行なうように、指示をした。移植手術には色々と手続きが必要で、決まってからも時間がかかるので急ぐ必要があった。

志野の検査結果は「適合」だった。それもほぼ100%という驚異的な適応で、移植後の経過も問題ないであろう事が予想できた。小百合は病院を変るという事に関して「手術がここでは出来ないから」とだけ聞かされていた。患者に移植を話すことは決められていたが、あえて内緒にしたのはきっと小百合が拒否するからと、提供者からの強い要望があったからだ。もちろん、転送先の信州医大では何の手術をするのかは小百合に話すことになる。寸前で断れない状況にして望むことを、志野や貴雄や宮前が相談して出した結論でもあった。

明日は志野が信州医大へ入院していよいよ移植への準備に入る日だ。最後の夜になるかも知れない二人だけの時間を迎えようとしていた。
志野との出逢いから今日までのことが巡って来ては戻り、また巡ってきては戻ることを繰り返していた。もう二度と元気な姿で帰って来ないかも知れないと言う不安と自分から去って行くような寂寥感が重なって言いようの無い焦燥感を表わしていた。

「貴雄さん、どうなされましたの?先ほどから一言もお話になりませんよ?」
「志野はボクのことが本当に好きなのか?どうなんだ?助けてもらったから仕方なく傍に居るのか?」初めて聞く貴雄の突き放すようなその喋り方に、耳を疑うように聞き返した。

「なにを仰っているのですか!まことにそのようなお心でいらっしゃるのですか?志野は・・・悲しゅうございます」
「小百合さんは大切な人だと思う。母のような人だからな、志野にとって。自分の命を賭けても助けたいと願うのは反対の立場だったら、僕もそうしただろう。けど、お前に必要なのはボクじゃないって気がするんだよ・・・今となっては小百合さんと二人で暮らしてゆける、そう思ったら、ボクはただの夫と言う立場だけの存在にしか感じられない。そのことが寂しいんだ」
「貴雄さん・・・命の恩人を誰よりも大切に思う心は変っておりません。小百合様を救えることが志野にしか出来ないのなら、そうする事が与えられた使命だと思います。貴雄さんとの結婚も、これからの人生も大切なことではありますが、今は安藤先生と宮前先生のご尽力に答えることが、先決であると考えております。志野の気持ちをお察しいただけませんか?」

貴雄はそのように言われなくても、どう考えているかぐらい知っていた。志野が自分を裏切ったり、捨てたりするような女じゃないことぐらい知り過ぎている事だが、感じた不安の隙間に嫉妬が入り込んでしまったのだ。抑えられなくなる軽蔑すべき醜さを初めて味わった瞬間でもあった。少しの沈黙の後に、敏感に何かを悟った志野は、貴雄に身を寄せながら
「抱いてくださいませ・・・」そう囁いた。

長い長いそして熱い夜が始まろうとしていた。全てを許そうとする思いと志野が好きだと言う気持ちを重ね合わせて、貴雄は激しく身体をぶつけた。初めて知る歓びに志野は、はしたないと感じながらも抑えることが出来なくなって声を出して応えた。

命の結びつきがあって欲しい、志野はそう強く願っていた。明日からの入院生活に希望を見るとしたら、小百合の回復と、貴雄の子供を身ごもれたら、という願いだった。