小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

榊原屋敷の怪

INDEX|3ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

しかし佐久朗は女の人の叫び声にはまったく耳を貸さなかった。
「よは騒がしいのは嫌いだ。そこの者、巫女を黙らせろ」
ここでイメージは途切れた。
一体今のイメージは何なのだろう。
よく分からないけど、とりあえずあの佐久朗って人は悪い人なのかな。
あの女の人どうなっちゃったんだろう……たしか巫女って呼ばれてたよね。
あの後祭りでもしたのかな?
「おーい。おーい」
はっと気が付くと叔母さんが私の目の前で手を振っていた。
どうやらボーっとしていた様だ。
「ふぅ、ようやく気付いた」
叔母さんがため息をつきながら額を手で拭った。
「あんま本気にしないでよ。さっきの冗談なんだから」
叔母さんがバツの悪そうな顔で言う。
良かった、冗談だったんだ。
そう安堵したのも束の間、新たな疑問が湧いてきた。
叔母さんが言った、『この下には死が広がっている』という話が嘘なら先ほどのイメージはなんだったのだろう。
「ねぇ叔母さん」
「な、何……?もう一度言うけどさっきの話なら嘘だから気にしなくても良いわよ?」
叔母さんが弁解する様な口調で言った。
私に言った冗談をかなり気にしている様だ。
「うん……分かってる。別の話。あのさ叔母さん……」
そこまで言いかけて私は口をつぐむ。
あのイメージの詳細を知りたくて口を開いたはずだった。
でもなぜだろう、言っちゃいけない気がする。
「なぁに?」
「……」
私が答えないので叔母さんは怪訝そうな表情を浮かべた。
訝しげな視線で見られるのに耐えられなくて私は咄嗟に思いついた言葉を口にする。
「えへへっ……何を言おうとしてたのか忘れちゃった」
一瞬叔母さんはきょとんとした表情を浮かべたがすぐにニコリとほほ笑んだ。
「そう、じゃあ思い出したら言ってね」
「うん、分かった」
「それじゃあ次の場所へ移りましょうか」
叔母さんが部屋から出ながら私に声を掛けた。
私は最後に床扉を凝視しながら「うん」と答えた。
叔母さんに続いて部屋を出る。
部屋から退出する直前、後ろ髪を引っ張られた様に振り返りたい衝動に駆られたけどなんとかそれを振り切って廊下に足を踏み出した。
廊下に出ると叔母さんは再びバツの悪そうな顔を私に向けた。
「何度も言うようだけどさっきの話は嘘だからね。気にしてるようだったらごめんね」
さっき私が言いかけたことが自分の言ったことに関連してると思ったのだろうか、叔母さんは心の底から申し訳なさそうに言った。
私は吹き出しそうなのを必死で堪える。
まったく叔母さんは面白い人だ。
後でこんなに後悔するならあんな嘘つかなければ良かったのに。
「大丈夫。分かってるよ」
私がそう言うと叔母さんは安心したように笑った。


「さて、ここが最後ね」
そう言って叔母さんは屋敷の外の大きな倉庫の様な建物の前で立ち止まった。
「そしてここが一番重要なところよ」
叔母さんの声には先ほどまでのふざけは感じられない。
威厳を感じさせる真面目な声だった。
私はゴクリと唾を飲み込んで聞く。
「さっき見た床扉は絶対に開けちゃいけないと言われてきた扉。でもここはあそこ以上に禁じられた場所」
私は建物を見上げた。
とても大きな倉庫。
ここも先ほどの床扉の部屋と同じで昔からまったく変わっていないようだ。
ふと視線を下げて行き、錠前が“あるべきところ”で私の視線は止まった。
なぜかこの建物の扉には錠前が付けられていないのだ。
変わりに取っ手の部分に大きなお札が貼られていた。
難しい漢字がビッシリと書かれていて私じゃ到底読めそうにない。
「真理ちゃん、絶対にここにだけは近付いちゃダメよ」
叔母さんが厳しい表情で言う。
「どうして?」
私は首を傾げた。
理由が知りたい。
理由も教えられずに近づくななんて納得できない。
「真理ちゃんがもう少し大きくなったら教えてあげるわ。今の真理ちゃんには難しい話だからね」
私はぷぅと頬を膨らませた。
子供扱いされたせいだ。
真理ちゃんにはまだ早い、真理ちゃんにはまだ無理、真理ちゃんにはまだ難しい。
大人はみんなそうやって私を子供扱いする。
私はそれがひどく気に入らなかった。
「子供扱いしないで」
私はギロリと叔母さんを睨みつける。
その視線を受けて叔母さんは困った様に笑った。
「ごめんごめん。それでもまだ真理ちゃんには難しい話なの、分かって。どうしてもここは危険なのよ、これは真理ちゃんを守るため」
取って付けた様な理屈だけど叔母さんの視線に私は負けてしまった。
「分かった……その代わりその時が来たらすぐに教えてよ」
「もちろん。だって真理ちゃんもこの家の一員だもんね」
そう言って叔母さんはニコリと私に笑いかけた。
すると先ほどの怒りなどすぐに消えてしまい、私の顔にも自然と微笑が浮かぶ。
「それじゃ約束ね、絶対にあの床扉の部屋とこの蔵には近づかないこと。約束出来るわよね?」
叔母さんが言った。
どうやら最終確認をするつもりらしい。
まったくもっと人を信用してほしいものだ。
「うん。出来る」
「よしっ、それじゃ指きりゲンマン」
そう言って叔母さんが指を差し出す。
私もそれに応えて指を差し出した。
お互いの指に自分の指を絡めて私たちは同時に言った。
作品名:榊原屋敷の怪 作家名:逢坂愛発