殺生――『今昔物語』より
二
開皇の末年、戦乱は減って、政治は安定し、国は富みつつありました。
開皇は善政を敷かれ、その治世では、『開皇律令』なる法を厳格に定められ、それまで曖昧だった、様々な事象の善悪をはっきりとさせられました。また、政治の最高機関として尚書省・門下省・内史省の三省を設置され、南北朝時代からの因習であった『九品官人法』を廃止されて、新たに『科挙』を実施することをお取り決めになりました。科挙といえば、現在でも行われている官吏登用制度でございます。そのことからもわかるとおり、開皇は長年にわたり、後世の規範となる政治を行われたのでございます。
そのような安定した治世でも武人は必要でありまして、ここにわたくしはひとりの武官を紹介したいと存じます。これから語るお話の中心人物であり、彼の人生こそ、わたくしがもっとも語りたいことなのでございます。
兵部に所属する王某。それがその人物の名前でございます。
王某様は、代州の生まれであることは確かでありまして、若い頃から公にお仕えされており、驃騎将軍として、長く荊州の地に在任していらっしゃいました。
さて、ここからはひとつひとつ順を追って述べて参りましょう。
作品名:殺生――『今昔物語』より 作家名:蒼幻