殺生――『今昔物語』より
一
隋の煬帝といえば、殷の紂王とならび、わが国でも悪帝として名を馳せておりますから、みなさまもご存知のことでございましょう。
いまからみなさまにお伝えする物語は、この煬帝の一つ前の帝、開祖文帝――別名開皇――の治世のころの説話でございます。また、それは、わたくしが震旦に留学しておりました折に聞き知った話でございまして、まこと深甚なる教えを含んでおるものですから、是非に、本朝のみなさまにもお披露目したいと願っております。このお話をお伝えする前に、みなさまにお見知りおき願いたいことはただひとつ。『現世の生者は、たとえ王でも乞食でも、因果の法からは逃れられぬ』という哲理でございます。この話を通じて、そのことをお伝えできれば、これ以上冥利なことはございません。
それでは前置きが長くなりました。話を進めてまいりましょう。
作品名:殺生――『今昔物語』より 作家名:蒼幻