天使と悪魔の修行 後編
「ついに俺も失業者かあ……はあーー」
ナオキは何度目かの大きな溜息を付きました。
「俺ほど不幸な男はいないよなあ……」
その呟きを聞いて、あっくんが嬉しそうにニッコリ笑いました。
「イエーィ! やったね」
心の中ではハイテンションな歓喜の声を上げていました。
だからあっくんのレポートは順調に進んでいるんです。
「さあ、できたぞ!」
そう言うと、あっくんはパレットのポッチをプチッと押しました。
「よし、宿題完了だあ。あとはヨーフル先生からの返事を待つだけだぞ」
¥ジェルちゃんと同じように、レポートを提出すると、それを見たヨーフル先生がOKだと判断すれば、帰国の案内が届くのです。
「うーん、それまで何してようかな? そう言えばさっきちょっと可愛い看護士さんがいたなあ……」
そう言ったあっくんの鼻の下が伸びていたかどうか……。まあ、そこは皆さんの想像にお任せすることにして、あれから¥ジェルちゃんがどうしてるか、ちょっと様子を見に行ってみましょう。
少しだけ時間を溯って、ナオキが階段を転げ落ちるほんの少し前のことです。
「ちびっこの部屋」で、ママの迎えを待ちながらユウキ君と一緒に待っている時、宿題のレポートを送信して、先生からの返事待ちの¥ジェルちゃんの元に、待ちかねた先生からの返事が届きました。
「¥ジェルちゃん、今回の宿題のレポート見ましたよ。よく頑張りましたね。特に、ユウキ君のママがユウキ君の頸を絞めようとした時は、咄嗟のことなのによく食い止めました。点数を加算しといてあげましたからね。――で、帰国の日時ですが、明日の早朝、いつものように迎えを差し向けます。それに乗って帰っていらっしゃい。ご苦労様 ヨーフル」
その夜、¥ジェルちゃんはユウキ君にお別れの挨拶をすることにしました。
「ユウキ君、私ね、もう自分の国に帰るの」
「ふうーん。どこのくに?」
「ここからずっと遠くの神様の国なんだよ。私は天使だから……」
ユウキ君が不思議そうな顔でじっと見ています。
「私はね、ユウキ君を幸せにするためにやって来たの。ユウキ君は今は幸せでしょう?」
「うん! ぼく、とってもしあわせだよ」
ユウキ君はニコニコしながらそう言いました。
「だからね、もう私の仕事は終わったの」
「ねえ、おねえちゃん」
「うん、なあに?」
「あのさ、ぼく、ごほんでみたよ。てんしっていうの」
「そう?」
「でも、てんしって、とってもかわいいんだよね! まっしろなおようふくをきてて……」
「あら、よく知ってるのね」
「おねえちゃんはどうして、そんなにヨレヨレで、かわいくないの?」
「ユウキ君、何を言ってるの?……」
¥ジェルちゃんにはユウキ君の言ってる意味が分かりません。
こんなに可愛いのに……どうしてそんなことを言うんだろうと不思議に思いました。
ちょうどその時、保育士の先生がユウキ君に声を掛けました。
「さあ、ユウキ君。そろそろお布団に入ろうか?」
先生の声を背中に聞きながら、ちょっと焦って¥ジェルちゃんが言いました。
「ユウキ君、もう少ししたら私は帰るから、これからもママと一緒に幸せに暮らすんだよ」
そう言ってユウキ君の頭を撫でなでしました。
「うん! おねえちゃんもげんきでね。バイバイ」
その後、ユウキ君はおねんねの時間となり、先生に着替えをさせてもらうと、トイレに行ってからお布団に入りました。
¥ジェルちゃんもユウキ君との最後の夜となるので、一緒に横になりました。
作品名:天使と悪魔の修行 後編 作家名:ゆうか♪