天使と悪魔の修行 後編
悪魔にされたルシフェルはその後きっちりと反省し、悪魔としての修行を積んだ後、今では立派な悪魔として日々サターン様の僕〔しもべ〕として働いています。
「あの子には、きっとこの方が良かったんだわ」
そう呟くと、ヨーフル先生は小さく溜息をつきました。
さて、話がちょっと脇道に反れてしまいましたが、その時のルシフェルの手の甲に付いたアザは、今もそのまま残っています。可愛いハート型のアザとして。
実はママの手の甲にできたアザも、今はいびつな形の赤いアザだけど、しばらくするとハート型になるのです。
そんなこととは知らないママは、散々泣き疲れた後、アザをそっと撫でると、
「ちゃんと消えるかしら? このアザ」と呟きました。
色白のママの肌の上で、その赤い形はとっても目立つのです。
「でも、もし消えなくても……いいえ、消えない方がいいのかも。これは神様からの私のへの警告なのかもしれないから。これからはこのアザを自分への戒めとして、ユウキを大切にしよう」
ママは心の中でそう誓ったのでした。
その想いを感じ取った¥ジェルちゃんはホッとしました。
ところが違う想いを抱いてママを見ているものがありました。
そう、あっくんです。
あっくんはユキの仕事が終わるのを待って、ユキにくっついて「ちびっこの部屋」へ行き、息子と共に帰るタクシーに一緒に乗ってここまで来ていたのです。
同じ部屋に¥ジェルちゃんとあっくんはいるのですが、互いに相手の姿は見えていません。見る気で見れば見えるのだけど、まさか同じ場所にいるとは夢にも思っていないので、見ようともしていないのでした。
実は、ユキがユウキ君の頸に手をかけようとした時、あっくんは一瞬ニヤリとほくそえんだのです。でも、あっくんを責めないでやって下さい。だってあっくんは悪魔ですから……。それに今回の宿題は誰かを不幸にするっていうことですから。
そのままもしユキが息子の頸を絞めて死なせてしまっていたら、あとで後悔の念と罪の意識に責め苛まれるに決まっています。
即ちユキは不幸な境遇になるのです。それは、あっくんにとっては願ってもないことでした。
残念ながら結果的には期待はずれに終わってしまいましたが……。
「うぅーん、惜しかった」と呟いたあっくんでしたが、内心では少しだけホッともしていたのです。だってまだ、少しだけ優しさも持っているんですもの。
あっくんから見ると、その後のユキは、ナオキのことなんかすっかり忘れているように見えました。今しがた、自分が息子を殺そうとしたことへの反省の気持ちでいっぱいだったせいか、ナオキのことなんか考える余裕がなかったみたいなんです。
その夜、ユキは息子を抱きしめて眠りにつきました。
翌朝、目覚めた時のママの目はすっかり腫れて、おまけに赤く充血していました。
無理もありませんね、昨夜はナオキにあんな風に振られてしまうし、そのショックからとは言うものの、可愛い息子のユウキに手をかけようとまでしてしまって、自分でも情けなくって涙があとからあとから流れてきて、結局眠ったのは明け方近くになってからでしたから。
その様子をずっと見守っていた¥ジェルちゃんとあっくんも、やはり寝不足で、先ほどから誰にも見えないのをいいことに、裂けてしまいそうなくらいの大口をぐわぁーっと開けて大欠伸の連続です。
それを水鏡を通して見ていたヨーフル先生までつられて欠伸をしてしまいました。
「あら、私としたことが……ホホホホ」
そう呟くと周囲をキョロキョロ見回し、誰もいないのを見定めてホッとした様子です。
ママが洗面所で顔を洗いながら目の腫れを冷やしている時、ユウキ君が目を覚ましたようです。
「ママぁ……」
目覚めたばかりのユウキ君が、寝ぼけ眼でママを呼びました。
「あっ、ユウキ起きたのね」
そう言うとママは急いでユウキ君のそばへ行き、ベッドに腰掛けるとユウキ君の小さな身体を抱き上げ、向かい合う姿勢で自分の膝の上に乗せました。そしてユウキ君の目の高さに視線を合わせて、優しく語り始めました。
作品名:天使と悪魔の修行 後編 作家名:ゆうか♪