小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

機械修理人 壱と半分-親月-

INDEX|1ページ/6ページ|

次のページ
 



そこはくらい。
くらい。
てをのばしても。
ひかりがみえない。
くらい。
こわい。
なにもきこえない。
しずんでいくかんかく。
なにものこらないかんかく。

ぼくはきっとここで…。


[ 壱 ]

その日は最悪の天気だった。

「暑い…」

空は青く、雲ひとつない。影は地面に焼きつくように黒く存在していた。ぱたぱたと新聞で扇ぎながら、無精髭の青年は今にも泣き出しそうな声を出す。

「あつい…ねぇ…くーらーは?」
「ある訳ないだろ?文明の利器、扇風機を利用すれば?」

からんと氷が鳴る。それまで溶ける様な姿をみせていた青年は、体を勢い良く上げる。目の前に出されたアイスティー。ガムシロップやミルクがないのはご愛嬌だね、と目を輝かせながら青年は持ってきてくれた少年に語りかける。

(愛嬌なもんか、そんなもの出す貯金が今ないだけさ…)

少年は一人ごちた。
気にせずに、ちびりちびりと喉に流す。

「良く分かってるようで」

青年の姿を見て少年は溜息をつく。

「そらそうだよ、我侭を言って手に入れたファーストフラッシュだもの!!」
「いや、正確に言えばファーストじゃないんだけどね…」
「でも、ある種季節モノでしょ?」
「まぁね…」

幸せそうな表情をしながら、青年は香りと味を楽しんでいた。

(こんな事で幸せを感じるならば、幸せを多く感じる為に仕事を確りしてくれよ…)

実際頭を抱えはしないが、少年の心中は頭を抱えたい現実があったのだ。今月残金二百五十ドレバジョ。
預金をこれ以上きり崩さない為には何としてでも、二百五十で今月を終わらせなければいけない。

(今月は、後十日もあるんだけど…)

光り輝く外を恨めしそうに見やる少年。今年は何故か雨季が短かった。真夏日、熱帯夜と呼ばれるものが、もう十五日も連続している。
お陰で都市部だけでなく水源とされる山岳部も、水不足だ。水道料金は上り、更に電気料金、ランプ用の油代も上がった。水は、仕事に必要なので必要最低限は確保しているが、流石に其れを切り崩したら仕事にならない。それを目の前の青年は、気が進んだ時のみ仕事をするようなタイプなのでよしとするだろうが、家事一切を切り盛りする少年からすれば、

「冗談じゃない!!」

と相手の鼓膜が破れるほどの大声で主張したい気分だ。電気料金は、多分今月調子だと平均以下なので問題はないのだが、問題は水だった。
兎に角、あついを連呼して、風呂に入り浸り(その度に水を捨てる)、水分取り捲りで通常以上に使用しているのだ。少年もこの暑さの為か、余り体調が優れない。時々ふらつきを感じる。色々な事にいい加減なくせに、事少年の体調等になると運が悪いと極度の心配性をロ手いるする為青年には伝えていないが、太陽が最も高いこの時間は、少々気にする時間だ。
部屋にいるよりも木陰に出て休んでいた方がいいので、大抵農作業の振りをして休んでいるが、今日はまだそれをしていない。何度注意しても、青年は涼む為に水を出しっぱなしにしたり、氷零庫を開けっ放しにしたり、と少年の努力を無に帰するような事をする為、目が離せないのだ。

「後一度で良いから、気温下がってくれないかなぁ…」

深く溜息をつく少年。机の上を見ると、先ほど渡したアイスティの入ったグラスは空っぽになっていた。青年の瞳を見ると、お代わりを強請る色を燈している。

「駄目」
「何もまだ言ってないじゃないかー!!」

間髪入れずに、少年は拒否する。聴いてショックを受けて、ほろりと涙がこぼれそうになる青年。すくり、立ち上がる。嫌な予感はしていた。後ろにじりっと下がり、避け様とした瞬間、少年は青年に抱き付かれていた。

「ほしーい、ほしーよー!!」

どう見ても気持ちの悪い図である。大の大人が、十代後半の外見を持った少年に抱きついている。他の人が見たら、明らかにそっち系だと勘違いされるだろう。もしそうだとしたら、この国では重罪人扱いを受ける。本人はそんなこと気にしていないから問題である。

「き、気色悪い!!お前自分の年齢くらい考えろ!!」

明らかに正しい反応を示す少年。そんな彼に対し、青年は更に力を強く加えて反論する。

「何だよそれっ、まだまだぴちぴちの三十路は入りたてに向かってなんて事言うんだ」
「十分年寄りだろうが~。それに、三十路にもなったんだから、ちゃんと仕事しろよぉ!修理がお前の本職だろうがー!!」

悲痛な叫び声が部屋に響き渡った。外ではそんなことお構いなしに太陽がさんさんと光を降り注がせている。今日も多分、熱帯夜だ。気象観測研究所の予報は、決して外れないだろう。