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キジと少年

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 それから一週間が過ぎた頃、一人の見知らぬ女性が中里家を訪れた。

「こんにちわ。私こういう者ですが……」
 応対に出た芳恵が、差し出された名刺を見て言った。
「えっとー、児童相談所の方ですか? 斉藤さん」
「はいそうです」
「そんな方がどうしてうちに? どんな御用でしょうか?」
「実はお宅でお世話されている勇人くんの件ですが、ちょっとお邪魔しても宜しいでしょうか?」
「ん? 勇人が何か?」
「ええ、まあー」
「あっ、失礼しました。どうぞお上がり下さい」

 勇人が子供部屋にいると、芳恵が呼んだ。
 居間の戸を開けて中に入ると、見知らぬ女性と芳恵が向かい合って座っていて、芳恵がそこに座るようにと目で合図した。
 勇人は不安な面持ちでテーブルの脇に正座して、これから何が始まるのかとじっと待っていた。

「君が勇人くんね。私は児童相談所からきた斉藤文子と言います。今日は君の今後のことでこちらの方とお話に来ました。いいかしら?」

 勇人はどういうことかは分からなかったが、ともかく頷いてみた。

「では早速ですが、――」
 そう言って話し始めたことは、芳恵にとっても勇人にとってもとても驚く内容だった。

 彼女は、ある人からの連絡が発端で勇人の境遇を調べたこと、そして町に残されている店や土地や家の管理のこと、もちろん銀行預金などの財産も含めて。
 それらが今現在、何の手続きもされないまま放置してあり、その手続きが必要であること。それを現金などに換えて勇人が大人になるまで、ある施設で管理するのが適切だろうということになり、同時に勇人もその施設に入るべきであることなどを、順に説明していった。

「勇人にそんな財産があったんですか?」
 芳恵が驚いたように尋ねた。
「はい、ご存じなかったんですか?」
「ええ、何も聞いていませんでした。主人がいきなりこの子の面倒をみることになったからと言って勇人を連れてきたもので、そんなことまではとても考えが及びませんでした……」
「そうですか。では、そういうことですので、勇人くんには早速そちらの施設に入って頂きますが宜しいですね?」
「あ、あのう、そういうことなら今まで通りうちで面倒をみれますが……」

 芳恵の頭の中には、勇人の財産のことが渦巻いているのは明らかだった。このまま勇人の面倒をみて、その財産を自分の物にしたい。そう思ってるんだろう。そんなことは一も二もなく斉藤には分かっていた。

「それはできません」
 あまりにもキッパリとした斉藤の物言いに、芳恵はちょっとムキになったようだ。
「どうしてですか! 今までだってうちで面倒をみてきたんじゃないですかっ」
「それに問題があるから今回こういうことになったんです。私が言ってる意味はお分かりですよね」
「えっ、そ、それは……」
「先ほど申しましたでしょう? すべての調べは付いているんです」
 芳恵が明らかにがっくりと肩を落とした。
「では、明日迎えに参りますので、荷物をまとめておいて下さいね。中里さん」

 そう言うと彼女は勇人の方へ向き直り、芳恵に対してのきつい口調をガラッと変えて、明るい声で質問した。

「勇人くん、私が言ったこと分かったかな? 明日迎えに来るけど、いい?」
「いい?」と聞かれても、勇人はそれでもよくは分からなかったが、ともかく、自分がここではない場所に引っ越すんだということだけは理解できた。そして、そこが今までの状況よりは期待できそうだということも……。だからゆっくりと大きく頷いた。
作品名:キジと少年 作家名:ゆうか♪