キジと少年
季節は冬が近付いていた。初めて出会った時のキジはまだ雛だったけど、その頃にはすでに立派な大人に成長していた。もちろん空を飛ぶこともできる。一旦山の仲間の元へ戻りはしたが、それでも時々キジは、勇人が学校から帰る時間辺りには神社の祠に現れて、夕方近くまで勇人と戯れたりした。
それはちょうど両親の事件から半年余りが過ぎた頃のことだった。
いつものように学校の帰りに神社に寄り、キジと戯れ、会話を交わし、それから家に帰ってしばらくした夕刻のことで、外には冬の走りの雪がちらちらと舞っていた。
ガタガタッ「ごめんください」
玄関に誰かが訪ねてきた音がして、子供部屋にいた勇人は芳恵に呼ばれて居間へ行った。
そこには見覚えのある男の人が二人並んで座っていた。
勇人がテーブルの前に正座すると、その内の一人が口を開いた。
「勇人くん、我々のことを覚えてるかい?」
二人は両親の事件の時に事情聴取に来た刑事だった。すぐにそれを思い出した勇人はゆっくりと頷いて見せた。
「そうか、覚えててくれたか。――実はね、今日来たのはほかでもない。君の両親を殺した犯人と思われる男が捕まったんだよ。そこで君に顔を確認してもらいたいんだが、いいかな? 大丈夫かな?」
勇人はしばし迷った後、コクリと頷いた。
「そうか、良かった。君にとっては奴の顔を見るのは辛いかも知れないが、犯人が捕まればきっと君の両親も成仏できると思うし、君もその方がいいだろう?」
刑事の問いに対して、正直なところ勇人には、それが良いことなのかどうか分からなかった。もし犯人が捕まったとしても、両親が生き返るわけではないし、もう一度自分を抱きしめてくれるわけでもないのだから、とうてい意味があるとは思えないのだった。
勇人にとっての望みは両親が帰ってきてくれること、ただそれだけだった。――そして孤独な自分を抱きしめて欲しかった。
次の日の午後、学校が終わる時間にその刑事が迎えに来た。二人は約束どおり校門の前で待っていた。
「やあ!」
勇人が二人に近付くと、一人が手を上げた。
「悪いなぁ、警察なんて行くの本当は嫌だろう? でも頼むよ」
勇人は首をすくめるようにして小さく横に振った。
「じゃあ、あれに乗って」
「……?」
刑事が指差す方を見ると、普通の黒い乗用車が道端に止めてあった。てっきりパトカーで来るとばかり思っていた勇人が、物問いたげな視線を刑事に向けると、刑事がにっこりして言った。
「ああ、パトカーだと思ってたんだね。あれは覆面パトカーって言うんだよ」
勇人は刑事に背を押されるようにしてその車に乗り込んだ。