キジと少年
そんな日がどれだけ続いた頃だろうか――。
ある日、勇人が一人きりでの学校からの帰り道でのこと。
黄色い花をつけた菜の花畑沿いの狭い畦道を歩いていると、脇の細い溝の中で、何やら黒っぽいものがゴソゴソと動いているのが目に留まった。
何だろうと思ってそばに駆け寄って見ると、一羽のキジがうずくまっているではないか。
「おや、どうしたんだろう。こんなところで……」
よく見ると、どうやらまだ生まれてそんなに日が経っていない雛鳥のようだった。
「おやどりはどうしたんだろう?」
勇人は思わず空を見上げたが、付近にそれらしき姿は見られなかった。
そっと手を伸ばしてそのキジを溝から掬い出し、
「どうしたんだい? かあちゃんとはぐれたのかぁ?」
声に出せないながらも、心の中でそう言いながら優しく頭を撫でてやった。
勇人には、まるで両親を失った自分を見るようにそのキジが哀れに思われた。
「かわいそうになあ……。ぼくもひとりなんだぁ」
ぼそりと心の中で呟く。
そのキジは決して人に慣れているはずはないのに、勇人を恐れる様子もなくじっとしている。
不思議に思った勇人は、キジを抱き上げてみた。
「あれっ」
どうやら足を怪我しているようだ。
「これじゃあとべないよね。とべなくちゃかあちゃんのところへももどれないかもなあ」
そう考えた勇人は急に思い立って、そのキジを抱きかかえると山へと向かった。
その山の麓には小さい神社があり、境内には樹齢何百年にもなる大きな杉の木が立っていた。
その木の根元には、祠〔ほこら〕のような大きな穴があいており、勇人はその穴の中へキジをそっと入れてやった。
勇人自身が入ることもできるほどの大きな穴で、その底の部分は、頭を伸ばして覗き込まない限り外からは見えないようになっているから、そこなら多少の外敵から身を守ることもできるだろうし、雨が降っても濡れることもないし――そう思ってのことだった。