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てっしゅう
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「不思議な夏」 第十三章~第十五章

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-----第十三章 新年-----

小百合は一通りの会話が終わると、明日の準備もあるので入浴したいと席を立った。志野は自分も一緒にと着いて行った。貴雄は千葉夫婦と一緒の部屋に美香と入って、志野が帰ってくるまで、話しをしようと座り込んだ。まもなく除夜の鐘が放映され、毎年聴くどこそこの鐘の音なる響きを聞いていた。

「皆さんもう2010年になりますね・・・ボクは本当に今年貴重な経験をしました。こうして皆さんと会える事も、大きな財産になりました。来年もよろしくお願いします」そう言うなり、年が明けた。
「新年おめでとうございます!」口々にそう言いあって、5人の正月が来た。志野と小百合は湯船で新年を迎えた。

「母様・・・なにやら騒がしいですね・・・新年になったのでしょうか?」
「そのようね・・・志野、新年おめでとう。本当にあなたに逢えて嬉しく思うの。これからはずっと一緒に新年を迎えられるのね?」
「新年明けましておめでとうございます。はい、そうします。まだ早すぎますが、来年は子供と貴雄さんと4人で迎える事が出来ますように願っています」
「そうね、そうなると嬉しいわ。頑張ってね!」
「いやですわ、母様・・・そのようなことを仰っては」
「そうだったわね、ごめんなさい・・・私は結婚していないから、子供がいないの。もう解っていると思うけど」
「はい、そう感じておりました」
「何故だか解る?結婚しなかったこと?」
「ご縁が無かっただけではないのですか?」
「自慢じゃ無いけど、それは無かったのよ。すべて私からお断りしたの」
「そうでしたの・・・お宿を守るためなんでしょうか?」
「ええ、そうよ。私の代で終わってしまうかも知れないってずっと考えてきたけど、そのために誰でも良いとは思わなかったの。亡くなった母が、女の幸せを犠牲にして継がなくても構わない、と言ってくれていた言葉が忘れられなくて。逆に私の代までは絶対に潰さないと頑張って来られた」
「母様・・・何だか志野は悲しくなって来ました」

志野は小百合の人生が憐れに思えた。これからは自分が力になり支えてあげたいとも思い始めていた。

「志野・・・あなたは若いわ。これからの人生まだまだ好きなことがやれるのよ。昔と違って女でも人の上に立てるの。貴雄さんの力を借りて、自分のやりたいことを見つけると良いわ。子供はねそれからでも遅くは無いのよ。早く欲しいとは言ったけど、本心はあなたが幸せになってくれることだけなんだから」
「母様、志野にはもったいないお言葉です。私が居た慶長ではもう婚姻して子供をもうける年齢になっております。そういう話もございましたから。戦が激しくなっていなかったら、多分その方と婚姻していたでしょう。その後にこの時代に来ていたら・・・そう考えますと恐ろしくなります」
「そうね、夫が居る身で、と言う事になるのですから・・・それこそ、貴雄さんとどうなっていたのかと考えさせられますね」
「はい、みんな先祖のありがたい守護の賜物です。感謝申し上げなければなりません。私は好きなことを求めることはいたしません。貴雄さんについてゆくことだけが幸せだと心から思っておりますから。こうして母様にも出逢えて、何の不足がありましょうぞ。志野は子供の手が離れた頃合を見て、母様のお手伝いをさせて頂きとうございます。私には誰にも話せない秘密がございます。今からのことは内緒にして下さいませ・・・」
「志野!何?怖いこと急に言わないでよ・・・ドキドキしてくるじゃない・・・」
「すみません。でも、大切なお話なんです。母様だけにはお話しておかないと」

「私は今十五です。昔で言うと年が明けたので十六になりました。母様はお幾つでしたか?」
「ええ、今年誕生日で50歳よ。大台に乗っちゃうのよ」
「見えないですね、そのようには・・・驚きました」
「ありがとう、毎日入浴している温泉のおかげね、それと真田水飲んでいるから」
「そうですか・・・羨ましいですわ。私の身体はこの時代に来ても慶長のままなんです。当たり前ですが、自分の居た時代では女は60まで生きられたら長生きなんです。ほとんどが50代で世を去ります。食べるものが豊富だし、医学も進歩しているから、貴雄さんは気にしなくて良い、といいますが、私にはそうは思えないのです」

志野が言いたいことは、自分は早く死ぬということらしい。小百合は理解できなかったが、言われてみればそうかも知れないと心配になった。

「志野は50になったらもう命がなくなるように感じているのね?」
「はい、そうです。だから、子供はなるべく早く生んで育てたいのです。母様の年まで35年・・・今は90歳まで女性が長生きすると聞きました。ならば、私のほうが母様より早くこの世を去ると言うことになります。ですから、一日でも早くお傍でお手伝いを差し上げたいと、そう考えたのでございますが、いけませんか?」
「志野・・・手伝ってくれるという気持ちは死ぬほど嬉しいよ。でも、今言ったことは当てはまらないと思います。医学の進歩なんて当てにしなくても、食べるものに気をつけて、運動をして、そう、真田水を飲んでいれば、絶対に長生き出来るから、そう信じなさい」
「貴雄さんにも、私を助けてくださった先生からも同じような言葉を頂きました。信じることが救われるのだとも・・・この年からそのような心配をするなんておかしいと思いましたけど、幸せを感じられれば感じられるほど、心が苦しくなるのです。申し訳なく思えて・・・」
「志野・・・誰もがあなたを許すわ。誇りを持って生きることよ。強い信念があなたを救うから、出来ることを躊躇せずにやれるだけおやりなさい。私はどのようなことでもあなたの助けになるから、いや、なってあげたいの。安心しなさいね」
「母様・・・志野は本当に幸せ者です。この時代に母様と呼べる小百合さんにお逢い出来て。もう、離れとうはございませぬ・・・」
「志野、帰る場所があるのよ、あなたには・・・寂しいときだけ私を思い出せばいいから。どんなに離れていても、もう大丈夫よ。心が繋がっているからね。親子だもの、斬って切れる縁じゃないから」
「はい、そう志野も心得ておきます。母様、お背中流します。さあ、湯から出ましょう」

50になる小百合の身体は自分が居た頃の母たちとはまったく違う、白く艶のある綺麗な背中であった。自分もこのように年をとりたいと志野は強く思っていた。

「志野さんは遅いなあ・・・小百合さんと話し込んでいるのかな?貴雄君、そろそろ寝たいからいいかな?」
「先生、気がつきませんでした。では、部屋に戻ります。それでは明日の朝皆さんでお祝いすることを楽しみにしています。では、おやすみなさい・・・そうそう、美香さんもお休みなさい」
「貴雄さん、おやすみなさい。明日またね、志野さんに宜しくね」
「はい、では失礼します」

貴雄は千葉の部屋を出て向かいの自分の部屋に入った。廊下を隔てているだけで話し声は聞こえない。小百合が気を利かせて隣ではなく向かい側にしてくれたのだ。部屋の暖房を入れてコタツに入り志野を待っていた。

「そろそろ出ましょうか、貴雄さんきっと待っておられるから」