犠牲になる少年の話
インターネットで申し込むと、すぐに提出書類が届いた。送り主
は、この名古屋市内にある大きな病院からだった。CROSSから
委託されているらしい。提出書類は、氏名や住所を書いたりするも
のだけでなく、誓約書もあった。誓約書は、「死ぬのは自らの意志
によるものであると了承しますか?」というものだ。後で、この取
引について、CROSSが追及された際、「ほら、見て下さい。こ
の通り、提供者からの誓約書がありますが?」という反論材料にで
もするつもりだろう……。
その誓約書を書くときに初めて、僕は躊躇した……。だが、妹の
ことを思い出すと、手を震わせながらその誓約書を書いた……。
エイズ治療薬注入と臓器移植は、両方ともこの病院で行なわれる
ことになっていた。あの提出書類を出した後、すぐに案内と交通費
が届いた。もうすぐ死ぬということを、僕は心にしっかりと刻んで
いた……。
寒い中、集合場所である名古屋駅に行くと、駅前の出迎え場所に
停まっていた迎えの車に乗りこんだ。車の中はエアコンが効いてお
り暖かった。窓の外を眺めていると、CROSSの広報やプロパガ
ンダの看板が次々に目に飛び込んできた。
『もっともっと豊かになろう!!!』
『この世界は、異次元最高の生活水準!!!』
『自由を広めよう!!!』
『君は愛知県軍に登録したか?』
……といったようなものだ。ぼくが住んでいるほうにもあるが、
一番人が多い場所だけだけに、看板の数も多かった。その看板の前
をコートなどを着込んだ人々が通り過ぎていった。
しばらくして、僕と妹を乗せた車は目的地である病院の前に着い
た。着いたころには、雪が降っていた。妹は雪に喜んでおり、妹が
後で雪遊びしようと僕を誘った。僕はわかったよとウソをついた…
…。病院の前には、担当する医師二人が出迎えてくれた。
その二人の医師を先頭に病院の中を進む。病院のあちこちに、
愛知県軍の兵士が警備で立っていた。待合室の前を通り過ぎたとき、
何人かの人々が僕のことをじっと見ていた……。僕は不気味に感じ
た……。