小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

待たせてゴメンね♪

INDEX|32ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 


 大学二年の夏休み前、近くの商店街でカレンと出会った。
 たまたま俺が人間違えをしたのがきっかけだったが、その後お茶を飲み、一緒に遊びに行くようになり、セックスまで行くのにもそう時間は掛からなかった。
 カレンとのセックスは結構馬が合う。そんな気がしていたから俺は満足していた。セックスについてだけは……。そして、一応自分の彼女だとも思っていた。
 ところがある日、偶然商店街を歩いている彼女を見かけた。
「おい、カレン!」 
 と声を掛けそうになって、アッと気付いてやめた。
 よく見ると男性と一緒で、腕を組んでいた。悪い冗談だろっ? と思いながらも俺は呆然とした。何とその男性は、俺を一番可愛がってくれている山田先輩じゃないか!
 無意識の内に俺は二人の後を尾行していた。二人に気付かれない様にそうっと……。
 暫らく歩くと、商店街を抜け脇道に入って行き、二人はその並びにあるホテルへの入口をくぐって行った。俺は自分の目が信じられない気がした。ショックでくらくらする頭と震える身体を抱え、自宅へ向かった。
 どこをどう歩いて来たのか自分でも分らなかったが、気が付いたら自宅アパートのドアの前に立っていた。
 自分の部屋に入ると、必死で自らに落ち着くように言い聞かせ、どうしたらいいのかと考えた。
 ――そう言えば、この所なんとなくカレンの態度がよそよそしかったなぁ。俺を避けているような気もしたり……。でも、まさかこんなことだとは……。俺のことが嫌いになったんだろうか? でも、そうだとしたらなぜ? あんなにうまくいってたのに……アァー分からない――
 俺の頭の中は、何度も同じことを堂々巡りのように回っている。本当の所が知りたいが、カレンに聞いた方が良いのか? それとも先輩に……? とても見ない振りはできそうにない。――三日悩んだ末、俺は先輩を呼び出した。例の駅前の古びたカフェに。

 その日約束のカフェに行くと、先輩はもう来て待っていた。
 俺がどう切り出したらいいものか考えていると、先輩が先に口を切った。
「京平、俺に言いたいことか、聞きたいことがあるんじゃないのか? 最近、カレンの態度が以前と違うんじゃないのか?」
『……なぜそれを?』 俺は心の中でそう問い返した。
「じゃあ俺から言おう。実は俺はカレンと付き合っている」
 思わず俺は顔を上げて、先輩の顔を凝視した。 『やはり……か……』
「でもなぁ、誤解するな。俺は遊びじゃない、本気だ。 ――お前には本当にすまんと思ってる。もっと早く言おうとは思ってたんだ。でもいざとなると、お前の顔を見るとなかなか言えなかった。京平、悪いけどカレンを俺に譲ってくれ。カレンは俺の運命の女だ!」
 俺は正直驚いた。先輩の口からこんな言葉を聞こうとは――。俺は何も言えずただ腕組みをして先輩を見ていた。すると先輩がいきなりテーブルに頭をこすり付け謝りだした。それも何度も。
「すまん、京平すまん」 
「分かりました。分りましたから頭を上げて下さい」 
 俺が焦ってそう言うと、
「京平、分ってくれるか? 俺は本当にカレンを愛してるんだ! でもお前はそうじゃない。違うか?!」 
 先輩にそう言われ、俺はすぐに返答ができなかった。
 ――自分の胸の内を見つめてみた。
『確かに俺はカレンを愛してはいなかったかも知れない。ただセックスするのに丁度良かっただけなのかも……』
「――先輩、カレンはどうなんですか? カレンも先輩を好きなんですか?」
「うん、勿論だ! 彼女が卒業したら結婚しようと思っている。彼女も承知してくれたよ。近々彼女の親にも挨拶に行こうと思ってるくらいだ」
 珍しく照れくさそうな先輩がいた。
「そうなんだ……。そこまで……。じゃあもう俺の出る幕はないですねっ! 道理で最近カレンが俺に冷たいわけだ。はっはっはっは!」
 俺は無理して笑っていた。そして、急用を思い出したと言ってその場を後にしてきたのだが、その時には、呼び出したのが自分だと言うことをすっかり忘れていた。
 
 正直な所、俺にとってはかなりショックな事態だった。俺は自宅のアパートの部屋に、電気も点けずに篭って考えた。『愛』というものについて……。
 大体俺は何のために大学に来たんだ? よく考えてみろ京平。自問自答した。
 葉子を傷つけ、カレンを失い、俺は今まで何をして来たんだ。何か大事なことを忘れているんじゃないのか? ――そうしてようやく気が付いた。
 俺は、京子との将来の為に大学に来たのに、京子を忘れ他の女に現を抜かし、そして傷つけ、傷ついた。本当に大馬鹿野郎だ! そして、ハッとした。
 あんなに辛い手紙を寄こした京子は、あれからどうしているんだろう。それが気になって来るとどうしようもなくて、俺は夏休みを利用して実家に帰ることにした。

 夏休みに入ってのすぐの日、田舎の駅に着いたその足で、あの店に行った。
 彼女と最後に会ったあの店に……。
「茶房 クロッカス」
 玄関の前までは行ったのだけど、なぜかそのドアが俺を拒絶しているように感じてとうとう入れなかった。諦めて俺は実家に向かって歩き始めた。すると向こうから、どこか見覚えがあるような女性が、小さい子供を連れて歩いてくる。じーっと考えたが、どうしても思い出せない。
「京平! 京平だよねっ!?」
 その女性の方から声を掛けてきた。その少し低めの、ドスのきいた声を聞いて記憶が蘇った。
「おぉー、お多恵さんじゃないか? 元気にしてたのか? もしかしたらその子はお多恵さんの?」 
 と俺が聞くと、
「そうよ。私に似ないで可愛いでしょ?!」 
 と目を細めて笑った。女の子を見つめるその目は、すっかり優しいお母さんになっている。少しお茶でもしようということになり、近くのファーストフードの店に寄った。
「お多恵さん、いつこっちに?」 
「うん、最近やっと親が許してくれて、それで今は、この近くでアパートを借りて親子三人で暮らしてるんだぁ」
「じゃあ 今は幸せなんだねっ?」
「まあ、世間並みってとこかなっ。でも旦那は私のことも、この子のことも可愛がってくれてる。だからやっぱり幸せなのかなぁ」 
 お多恵さんは本当に幸せそうな笑顔でにっこりと笑った。
「そうかぁ良かったなぁー。本当に良かったよ」
 何だか俺は嬉しくなって涙が零れそうになってきた。
「そんなことより京平、京子ちゃんどうしたのよぉ!?」
「えぇっ! 京子ちゃんがどうかしたの?」
「どうかしたの? じゃないでしょ。京平が振ったんでしょ? 京子泣いてたわよ」
「………」 
 俺は堪らなくなり、久し振りに会ったお多恵さんに、これまでのいきさつをすべて話した。すると、じっと俺の話を聞いてくれていたお多恵さんは、俺が話し終わると優しく聞いた。
「京平、今あんたどう思ってんの? 京子のこと」 
「うん。正直言うと、やっぱり俺には京子しかいない様な気がしてる。でも、もう遅いんだよ」 
 俺は少し迷いながら言った
「京平、人間正直が一番だよ! 遅いかどうか分からないじゃない。試してみたの? ――本当にそう思うなら、京子にまずきちんと謝るのが先じゃないの?」 
作品名:待たせてゴメンね♪ 作家名:ゆうか♪