ツキアカリ
彼女は生まれつきの全盲だ。
それゆえに、彼女は僕らの視ている世界を知らない。
彼女は、僕らの見ている世界を一生見る事はないのだろう。
僕は考える。目が見えなくなると、どうなるのか。
試しに目を閉じてみる。
今まで見えていた物が、すべてが暗闇に飲み込まれた。
試しに手を動かしてみる。当然その手を見ることはできない。
足を動かしてみる。どこにあるのかすらわからない。
しばらく動くと、小指をどこかに当ててしまい、僕は悶絶した。
あまりの痛みに目を開く。そしてその痛みの中、彼女のことを思う。
彼女はあの暗闇の中から出ることができない。
永遠に、あの黒より暗い闇の中。僕はぞっとした。
「それは、あなたが持っているからよ」
彼女にそのことを尋ねると、笑ってそう言った。
「持っているから、怖いのよ。それを失うことが、あなたは怖いのよ。」
「そういう問題なのかな」
「そういう問題なのよ」
なんだか僕はとても歯がゆかった。
そんな僕を見て、彼女は意地悪く笑う。
「もしかして、あなた私の事かわいそうな人だとか思ってないでしょうね?」
ギクッとした。
「確かに、私は目が見えない。けれど、私は不幸ではないわ。私があなたの見ている光景を見る事を出来ないけれど、私は私なりに世界を視ているの。あなたが視ているものとは違う世界をね」
彼女はつらつらと、語る。
「例えば太陽の日差しの暖かさ。例えば降り積もる雪の音。例えば手に触れた水の冷たさ。
例えば口にしたお菓子の甘さ。世界はなにも見えるものだけじゃないよ」
でも、彼女はこう付け加えた。
「ただ、一度でいいから星の降る夜空を見てみたい。そう思うの」
現在夜12時。僕は車を運転している。
助手席には彼女が座っている。
目的地は、僕が小さい頃、両親と一緒に来た。広い公園。
彼女が夜空を照らす、この数え切れない星空を見ることができないのはわかっている。
けれど、けれど、僕は彼女を連れてきた。連れてきたかった。
車を止め、彼女の手をとって公園を歩く。
公園の中心で、用意したシーツを敷き。二人で仰向けになる。
僕は目を閉じる。こうすれば、僕は彼女と同じ世界に近づける。
虫たちの鳴き声。
青々しい草木の香り。
ほてったほほを冷ます、吹き抜ける風。
視えない。けれど、目を閉じたら見逃していたこういうものを感じられるようになった。
僕は彼女に語りかける。
それゆえに、彼女は僕らの視ている世界を知らない。
彼女は、僕らの見ている世界を一生見る事はないのだろう。
僕は考える。目が見えなくなると、どうなるのか。
試しに目を閉じてみる。
今まで見えていた物が、すべてが暗闇に飲み込まれた。
試しに手を動かしてみる。当然その手を見ることはできない。
足を動かしてみる。どこにあるのかすらわからない。
しばらく動くと、小指をどこかに当ててしまい、僕は悶絶した。
あまりの痛みに目を開く。そしてその痛みの中、彼女のことを思う。
彼女はあの暗闇の中から出ることができない。
永遠に、あの黒より暗い闇の中。僕はぞっとした。
「それは、あなたが持っているからよ」
彼女にそのことを尋ねると、笑ってそう言った。
「持っているから、怖いのよ。それを失うことが、あなたは怖いのよ。」
「そういう問題なのかな」
「そういう問題なのよ」
なんだか僕はとても歯がゆかった。
そんな僕を見て、彼女は意地悪く笑う。
「もしかして、あなた私の事かわいそうな人だとか思ってないでしょうね?」
ギクッとした。
「確かに、私は目が見えない。けれど、私は不幸ではないわ。私があなたの見ている光景を見る事を出来ないけれど、私は私なりに世界を視ているの。あなたが視ているものとは違う世界をね」
彼女はつらつらと、語る。
「例えば太陽の日差しの暖かさ。例えば降り積もる雪の音。例えば手に触れた水の冷たさ。
例えば口にしたお菓子の甘さ。世界はなにも見えるものだけじゃないよ」
でも、彼女はこう付け加えた。
「ただ、一度でいいから星の降る夜空を見てみたい。そう思うの」
現在夜12時。僕は車を運転している。
助手席には彼女が座っている。
目的地は、僕が小さい頃、両親と一緒に来た。広い公園。
彼女が夜空を照らす、この数え切れない星空を見ることができないのはわかっている。
けれど、けれど、僕は彼女を連れてきた。連れてきたかった。
車を止め、彼女の手をとって公園を歩く。
公園の中心で、用意したシーツを敷き。二人で仰向けになる。
僕は目を閉じる。こうすれば、僕は彼女と同じ世界に近づける。
虫たちの鳴き声。
青々しい草木の香り。
ほてったほほを冷ます、吹き抜ける風。
視えない。けれど、目を閉じたら見逃していたこういうものを感じられるようになった。
僕は彼女に語りかける。