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てっしゅう
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「不思議な夏」 第一章~第三章

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-----第1章 始まり-----

時は慶長20年5月7日。午後3時を回って敵方が城内へ侵入してきた。天守にいた女性たちは、もう逃げ場所もなく覚悟を決めようとお互いに話し合っていた。

「どうしたものよのう・・・すでに覚悟は決めておるゆえ身の振りは一つじゃが、子供らやそちたちのような娘ごを手にかけとうは無いわい」
年長で秀頼の側近であった侍女が集まっている女子衆を見ながらそう言った。
「おさき様、我らとてみな同じにござりまする。捨ててよい命などございませぬ。地下に抜け道があるとやら聞きました。城外へ出て限りある命をまっとう致しませぬか?」
一人の侍女がその年長者に意見した。おさきと呼ばれる女は、秀頼(豊臣)に仕えていたが、徳川の攻撃に遭い、捕らえられるより死を選ぶと言って仲間の女達を連れだって天守へ上ってきたのだ。

今一人の若い侍女から、逃げて命ある限り生きよう、と意見され気持がぐらついていた。10人いるおなご達は子供も含めて顔を見合わせ、どうするか話し始めていた。もう時間が無い。天守へ敵が迫るのは時間の問題だ。決心しなくてはならない。

「志野どの、そなたの申す通りじゃ。捨てる命より生きる命じゃ。皆の者。早く下へ降りてわたしについて参れ。抜け道から外へ出ようぞ」

地下壕への抜け道は探すしかなかったが、おさきには思い当たる場所があった。階段を駆け足で下りながら、なにやら歓声や煙のにおいがする城内に不安を感じながら急いでいた。志野は自分が最後に残り、みんなが避難出来るように背後を守ると言った。天守にあった薙刀を手に気持をしっかりと持ちしんがりを務めようとしていた。

なにやらもう本丸へ敵が攻めて来そうな気配になってきた。「急ぐのじゃ!」おさきの声が強くなる。重なるようにして先を急ぎ、早足で階段を下りてゆく。城門が破られた。大歓声の中徳川勢が本丸に侵入してきた。

「あそこに女子どもが居るぞ!」
一人の武者が大きな声を出して仲間に告げた。地下壕への入り口を見つけたおさきは仲間を先に中へ入れて、最後に自分が入ろうとして、志野に早く来るように声をかけた。
「私はすぐに参ります。おさき様は早く皆を連れて外に出られませ!」
「志野どの、早く来られませよ・・・」

先ほど仲間に告げた男と目線があった。
「おなごじゃ!それも若くて可愛いぞ。よしよし、わしが先に戴くよって、お前らそこで待っておれ」そう言いながら、志野に近づいていった。薙刀を構えた志野は、「近寄ると、命を落とすことになるぞえ!」とすごんで見せた。
「やってみせい!これでも元武士じゃ、女子に負けては末代までの恥!命は助けてやるゆえ、その物騒なものを床に置け!」
「尚近づく男にヒュっと矛先を突きつけた。

「何をする!こしゃくな・・・」
持っていた刀で振り払うと反対側の手で棒の部分を掴み、ねじった。志野は持っていた力をそがれ、手を離してしまった。
「それ見ろ!終わりじゃ観念しろ。可愛がって喜ばせてからあの世へ送ってやるから、ありがたく思え」そういうと、距離を詰めてきた。志野は慌てて、引き下がり、階段を駆け上がり天守閣のほうへ登り始めた。

「逃げても無駄じゃ!行き止まりゆえ・・・ハハハ、早う観念せぬか」

男はついに天守閣まで登ってきた。追い詰められた志野は、身を投げようと、身体を階に出して外を眺めた。大勢の兵隊が城を取り囲んでいるのが見えた。
「とうとう、最後か・・・おさき様達がうまく逃げてくだされば良いのですが。ここから飛び降りるしか道はなさそうじゃな・・・」
「まてまて、そんなところへ出て何をしようというのじゃ!命は助けるゆえ、諦めて観念いたせ」

男は動こうとはしなかった。睨み合いになった少しの時間が運命を分けた。

雨が降るわけでもないのに、黒い雲が近づき、雷の鳴る音が聞こえた。すぐ近くで落雷した。バシッという大きな音に、志野も男も身をすくめた。下を見た志野は不思議な光景を見た。落雷した辺りの空間になにやらぽっかりと空いた穴のようなものが見えたからだ。周りのもやに消されそうになってゆくその穴は、不思議に見ている志野を惹きつけた。背後で男の声がする。

「飛び降りるでないぞ!死なせはしないぞ」
迫り来る危険から逃れるように、もっと危険な行為と知りながら、階から身を投げた。その穴めがけて・・・

「あれ~・・・」
「なんということを!」男は階に出て下を見た。仲間の兵士たちが上を見上げてなにやら騒いでいる様子が見て取れた。しかし、飛び降りた女の姿らしきものが見えない。下を見ても誰もそのようなことがなかったかのように行き来している。

「おかしなことじゃ・・・女子はどうなってしまったのじゃ?」まさか、城の壁にへばり付いて隠れておるか?」そう言いながら、下をよくのぞいて見た。そのように隠れる場所などなかった。首を何度もかしげながら、しぶしぶ仲間の元へ戻っていった。

「おい、女子はどうした?良い思いしたのか?ハハハ・・・わしたちにも廻せよ」下品な話し振りでそう言う雑兵仲間に、「いや、いなくなってしもうたわい。不思議じゃ、天守閣から身投げしおったのじゃが、影も形も見あたらなんだ。落ちた形跡がないんじゃ」
「なんということ!狐につつまれたと申すのか?」
「どうやらそうじゃ・・・引き上げるぞ!ここには誰もおらぬゆえ」

堀に落ちたらしい。全身に冷たさを感じた。必死になって身体を動かし何とか岸にたどり着いた。「助かった・・・」しかし、動くと危険だ。暗くなるまでこのままじっとしていよう。そう思って身をかがめていた。だんだん薄暗くなり、雨が降ってきた。疲労している体から熱と体力を奪い始めた。志野は意識が朦朧となっていた。

2009年6月3日水曜日は朝早くに目が覚めた。貴雄は以前からネットでやり取りをして親しくなった女性と逢う約束をしていたからだ。待ち合わせの時間は夕方6時。大阪まで出かけないといけないから、美容院へ行って髪をセットして、そして車で待ち合わせ場所の大阪城に向かうつもりでいた。

携帯の番号も教えてもらったから、念のために時間と場所をもう一度メールした。返事は「楽しみにしています」とだけ、返ってきた。シャメで顔はお互いに解っていたから、逢える事が本当に楽しみであった。貴雄は今年25歳。CDレンタルショップでバイトをしている俗に言うフリーター生活だ。実家は大阪だが、両親が早くに亡くなってしまったので、一人で名古屋に住んでいる。祖父の代までずっと名古屋であったのが、父の転勤で本籍を大阪に移していた。身寄りの多くは愛知県に居たので、暮らしやすいと思い、名古屋に戻ってきた。