プロポーズ歌合戦
もうそろそろ閉園という時間。植物公園のベンチに座っている一人の女性に、一人の男性が恋の歌を捧げ始めた。男は少し照れくさいのか、女の方を向いてはいるが、目は宙を睨んでいる。もう二人の側には男性A、Bが寄ってきて隙を窺っている。
♪ 不思議だ 君と会う夜は
いつもきれいな月が出ている
ここで隙を窺っていた男Aが歌い出した
♪ 月がぁ出た出たぁ 月がぁ出たぁ
男Bが合いの手を入れる
あ、ヨイヨイっと!
女がA、Bをちらっと見た。それから男を見る。男はあきらかに動揺した様子だった。口を半開きにしたまま男A、Bを見ている。まだこういうシチュエーションには慣れていないのだろう。
女はじれったそうに男を見る。男は女が自分を見つめているのに気付いて気を取り直し、別の歌を歌い始めた。
♪ ああ、あなたが居れば あなたが居れば~
Aがすかさず歌を継ぐ。
♪ ああ、あなたは入れ歯 あなたは入れ歯~
Bがまた、合いの手をいれた。
ふがふが ふがふが
女が笑った。男は怒った顔をA、Bを睨みつけたが、明らかに戦意喪失の様子だった。女は一生懸命歌った男を微笑ましく見ていたのだけど、男はその顔の笑いを侮辱と受け取ったのか、何事かわめきながら走り去ってしまった。