表と裏の狭間には 六話―海辺の合宿―
きっと、私が学校で浮いていることなんて、お兄ちゃんにはお見通しなんだろう。
お兄ちゃんには、本当に感謝してる。
どれだけ感謝しても足りないくらい。
お兄ちゃんに一生奉仕しても、返しきれないくらい。
でも、ちょっと妬ましいかな。
あの人たちは、学校で、いつも、お兄ちゃんと一緒にいる。
それが、ちょっとだけ、羨ましくて、妬ましいかな。
お兄ちゃんは、私のものだもん。
私が、世界で一番、お兄ちゃんが大好きだ。
お兄ちゃんになら、何をされても平気。
………今のは、ちょっと嘘だね。
誰に嫌われたって構わないけど。
お兄ちゃんにだけは、嫌われたくないよ。
私には、何の取柄もない。
得意なものはないし、むしろ苦手なものの方が多いくらいだ。
クラスでも浮いてるし、友達だって自分の力じゃ作れない。
けれど、そんな私でも、一つだけ、誰にも負けない、誇りを持てることがある。
それは、お兄ちゃんを、好きなこと。
世界の誰がお兄ちゃんを嫌っても、私だけは、お兄ちゃんを、好きでいる。
ずっと。ずっと。
お兄ちゃん、大好きだよ。
だから。
いつまでも、ずっと一緒にいてね。お兄ちゃん。
雫は、俺にずっとよくしてくれた。
献身的に接してくれて、身の回りの家事をやってくれた。
そのお陰で、俺は比較的に怠惰な生活を送ることが出来る。
雫は、いつも無条件で、俺に純粋な好意を寄せてくれる。
それが、何よりの心の支えになる。
そうして、俺は今まで生きてこれたんだ。
だからこそ。
一生を、雫のために使い果たしても構わない。
雫が望むのなら。
俺は生涯、雫と共にあろう。
出来ることなら、俺は、雫のために、何かをしてやりたい。
俺は、そうやって生きていければ、それでいい。
夢、だろうか?
光も音もなく、ただ、感触だけがある。
それは、なにかが、いや、誰かが抱きついているような。
とても、大切なものが、抱きついているのが、分かる。
俺は、それを、抱き締める。
壊さないように、優しく。
それでも決して、離さないように。
そこまでしたところで、また、深い眠りに落ちるのが分かった。
雫も紫苑も、まだ知らない。
彼らのすぐ傍に、彼らが今、お互いの存在の次に望む、三人目の親友がいることを。
雫は、まだ知らない。
自らが恋するお兄ちゃんに、好意を寄せる少女がいることを。
紫苑は、まだ知らない。
己が溺愛する妹の中に、僅かながら、しかし確かに狂気が潜むことを。
穏やかで、幸福で、停滞した、ぬるま湯のような、心地よい兄妹関係。
そこに騒乱が持ち込まれるのは、実はそう遠くない未来のことなのかもしれない。
続く
作品名:表と裏の狭間には 六話―海辺の合宿― 作家名:零崎