夢の途中10 (302-352)
咲かせて 咲かせて 桃色吐息
アナタに 抱かれて
こぼれる華になる・・・
部屋の中に満ちていた熱気はおさまり、曇りガラスの窓の水滴はすっかり落ちて、
再び外界と繋がっていた。
既に天空に月は無く、遠く札幌市内のネオンの灯りが僅かに届くだけだ。
素肌にシーツを巻き付けただけの香織は優一の腕の中に居る。
目は瞑っていたが眠った訳では無く、激しく愛された余韻に浸っていたかった。
優一とて腕の中の香織の髪に顔を埋め、その匂いを嗅いでいると心が安らぐのだった。
「香織、眠った?」
『・・・うううん、まだ眠らないわ・・・』
「・・・香織、やっぱり一緒に住もうか?」
『・・・うふふふ♪・・・一緒に住もうって言ったって、アナタは未だあっちこっち忙しく行かなきゃならないわ・・・まだ当分無理よ・・・私の事なら、気にしちゃイヤ・・・』
「でも、・・ならせめて籍だけでも・・・」
『だから、それは未だ後にしましょうって・・・・アナタが会社を退職された時か、
せめて娘さんが結婚されるまで・・・私はこのままで十分満足なの・・・
今まで10年以上誰も居ない北海道で一人やってきたわ・・・あと5、6年なんて直ぐよ♪
アナタはいっぱいお仕事をして、時々藤野に帰って来てくれたら良いの♪
私も逢いに行くわ♪大阪でも東京でも名古屋でも♪
アナタが何処かに居てくれていると思うだけで私は生きて行ける♪
だから、まだ暫くは【遠距離恋愛】しましょ? うふふふ♪今は便利な時代よねぇ~♪
携帯電話は世界中繋がるし、メールもスカイプも♪アナタの顔も声もいつでも♪』
「遠距離恋愛ねぇ・・・そうだな、僕たちの若い頃には想像も出来なかった事がこんなに身近に・・・出来ないのは・・・セックス位か?^^;・・」
『ん、もォ~、Hなんだからァ~♪(#^.^#)』
五十路を過ぎたカップルなのに敢えて先を急がないふたりで在った。
今まで別々に過ごしてきた時間や生活のペースを犠牲にしてまで、遮二無二突き進むだけの若さが無かったからかも知れないが、それがふたりの愛し方だったのだ。
優一は再び香織に口付けした。
香織もそれを受け、優一の背中に両手を回した。
部屋の窓ガラスが再びふたりの熱気で曇り始めた。
【夢の途中・上巻・完】
作品名:夢の途中10 (302-352) 作家名:ef (エフ)