仕事伝説 ―彼と彼女―
「それは今まで来た女達も言ってきた。だが、私はリフク公国、元首の息子だ。不誠実な事があってはならないし、私は亡き妻だけを愛している。スペンの顔を保ってやる為に、会ってやっているだけだ」
「私は、自分の仕事場の主がどんな方か、試しにスペン様に候補として、申し出たまでです。――――噂通りの方かどうか」
「な・・・に?」
彼の顔が、困惑の色を表した。堂々と、無礼は承知で言う。
「・・・お前は、この国の者ではないな。生まれは」
「北と聞いています。故郷は既にありません」
本当の事だ。リュカスは、その地の女性を母に持った。自分が生まれてすぐ、ブラツ軍が攻め込み、国は滅亡した。
父はブライツ王国の情報部員であり、リュカスの母を利用し、情報を流していたのだ。
そして彼は、赤子であった自分だけを、国に連れ帰った。
数年経って父は死に、後を継がされるかのように、リュカスは『メイス』の人間になった。そして、今に至る。母はどうしているか、全く分からない。
「そうか。・・・いいだろう、気に入った。屋敷の掃除でも頼もうか」
「・・・有難うございます」
顔を上げると、フュウは微笑んだ。とてもその笑みは、今までの口調や表情からは、想像出来ないものであった。
作品名:仕事伝説 ―彼と彼女― 作家名:竹端 佑