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仕事伝説 ―自称する男―

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 巨大な砂漠を中心に、幾つかの国が点在する大陸、ザウンマルク大陸。
 北から南はブライツ王国、東にベルク共和国とザクマン共和国、ケルテ王国がある。
 その中のベルク共和国・首都、デフツ。首都だというのに、下町にはぼろぼろの家が建ち並び、治安も悪い。しかし、そこに住む人間は多い。産業が発達しておらず、余り裕福な国ではない。
 その下町のある一角で、悲鳴――――しかも男の――――が聞こえた。
 古ぼけた家のドアの前に、『仕事屋』と書かれた看板。その家が、悲鳴の源(もと)だった。
「赤字だって!?」
「ええ、見事な赤字よ」
 家主であるディーク・ローが、机をバン!と叩く。少し長めの茶髪を振り乱し、同色の瞳は血の涙を流さんばかり。撒くられた袖から見える、日焼けした逞しい腕も、情けなく見える。勿論、先程の悲鳴は彼のもの。
 その悲鳴は赤字という、店や国、個人の前に、必ずと言ってもいいほど現れる、恐怖の大魔王のような事態(そんざい)の為だった。
 まるで『貴方は不治の病で、もってあと三ヶ月の命です』と医者が言うように、しかし淡々と宣告したのは女性だ。
 肩より下まで、かかる金髪。青い瞳。この土地の暑い気候に合わせて、七分丈の上下を着ている。彼女はディークの叩いた机の上に帳簿を開き、椅子に座っていた。
 名は、イリス・バルト。年はディークが二十一なのに対して、イリスはそれより三つも下だが、どんな世界、御時世でも、女は強いものである。見事に、ディークは尻に敷かれている状態だ。
 精神年齢からいっても、ディークが下なのは一目瞭然。しかも、彼女は二年前まで何処かの国のスパイであったというから、それを知れば、驚く者が多い事だろう。勿論、彼女の口から直接聞く事は無いだろうが。
 任務に失敗し、追われていたところをディークがかくまって以来、ここに住むようになったのだ。
 彼女の経歴を見ると、彼が弱者に見えてしまう。が、そうでもない。ディークは自称、『伝説の仕事屋』。
 『仕事屋』というのは、殺し以外なら何でも受け持つ、いわゆる『何でも屋』である。
 だから、依頼されれば即解決する。
 彼は今まで、危険な仕事も受けてきているし、修羅場としか言いようの無い状況も、潜り抜けてきた。
 ――――勿論、イリスが居なかった時も。
 イリスは、どうしてこんな事になるのかと、いつも言おうとする。が、そういう時に限って修羅場に居るので、うやむやになっている。。
 強運か、はたまた運命か、ディークは強運、凶運な、星の下に生まれついたのだった。だから、『伝説の仕事屋』と言っている訳である。尤も、それが人に認められれば、の話だが。
 そんな彼の欠点。腕は立つのだが、いつも仕事に金を掛けてしまうという事。その為に、収入を得ても損ばかり。何とかやりくり――――彼ではなくイリスが――――していた・・・が、最早、借金地獄の入り口らしい。
「ウ、ウソだろ!?昨日、二十件も片付けたのに!!?」
「そう言われてもね。ほーら」
 帳簿を、イリスはこちらに立てて見せた。確かに、二ヶ月前を境にして、赤・赤・赤!!!
 己が招いた事態を、信じたくなかった。しかしこう見せ付けられては、絶望の淵に立たされたのと同じ。
「・・・な、何とか・・・ならないか?」
 二十一年生きているのに、彼は年下のイリスに打開策を相談する。
「・・・ならない訳じゃ、ないけど・・・」
 イリスはあらかじめ準備していたのか、一枚の羊皮紙をディークに突きつけた。
「なになに・・・〝貴重動物の護送〟か」
 護送は成功すれば、かなりの報酬が出る。しかし、それには護送側も金がかかる。
 リスクは大きい。
「いいのよ?このまま借金地獄になっても。――――私は逃げるだけだから」
 イリスは別に、スパイ業から足を洗っていない。だからいざとなったら、昔の職に戻るつもりだ。ディークを置いて。
「うぬおぉぉ~っ!!!よし、決めたぞっ!!!」
 彼はその依頼書を握り、宣言した。