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変われないままで

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映画「七瀬ふたたび」の主演女優のような人だった。漫画化されている「七瀬」に近いかもしれない。とにかくきつく涼しい顔をした非現実な美人だった。俺は、もし紀伊国屋書店にサッカーボールが転がっていたなら思いっきりシュートして、ワールドカップでゴールを決めた選手さながら叫んでしまいたかった。バスに乗れなくて良かったと、割と本音で思う。声を掛けて電話番号なんて聞き出せた日には胸ですべり始めたことだろう。俺はまだ現役を退きたくない一心で頑張るサッカー選手か。
こういう時だけ「もう若くないさ」を便利に使い彼女から去った。
新聞を読みながら昼食をとったあと、ほどなくバス出発の時刻となった。

五時間掛けて梅田から高知に向かった。バスにあるドリンクサービスが震災の影響で入手できないため当面実施できないと言っていた。後は高知に着くまで寝ていた。

そして今、高知の繁華街にあるマクドナルドでこれを書きながらNが迎えに来るのを待っている。

このマクドナルドにはただうるさい声を出したいだけの暇人が集まるようだ。うるさくて腹がたってくる。若い男女が甲高い声を出し合っている。大人の抑制を受けたことのないような笑い声だ。ここらの落ち着きのある人はマクドナルドになんて来ないのだろうか?だとしたらこんな所に来た俺が悪い。
マクドナルドの客は味の良し悪しも分からない近所迷惑な奴と相場が決まっている。

Nから「久しぶりに会いたい」と電話が掛かってきた時ちょうど自分もそう思っていた。

昔、付き合っていた頃Nは無職になって、仕事がないないと文句ばかり言っていた。愛想を尽かし別れを告げたが別にこれといって嫌いなところはなかった。美人でスタイルも良く胸も大きい。料理も上手だった。女は夢もなくただ平凡に生きているものだと当時の俺が知っていればまだ別れていなかっただろう。
俺を愛してくれた優しい人だった。その優しさと胸の大きさがまた会いたいと思わせる要因となっているのだろうか。それとも俺はまだどっかで愛を探しているのだろうか。

晩飯はカツオのたたきをポンズか塩どちらにつけるか話し合いながら、愛がどこにあるか探すのだろう。

あと15分でここに着くと連絡があった。

最近太ってしまった俺を見てNは何と言うだろう。きっと俺は自分から、見てくれ、俺太って丸くなってしまった、そう切り出すだろう。

作品名:変われないままで 作家名:青鼠