ノブ ・・第3部
嬉しい・・そう言いながら恭子は抱き付いてきた。
ボクが痛みを感じない程度に優しく。
ボクは恭子の髪を撫でながら、不思議な感覚にとらわれていた。
何だろう、この感じは。
恭子と一緒にいられるのは勿論、嬉しい事に違いない。
ただ、それだけではない・・・別の感情も湧きあがっていた。
先月の終わり、恭子との旅が終わって東京に戻ってからの一連の出来事が頭を駆け巡った。
実家に帰り止まっていた時間に押し潰されそうになって真由美さんを傷付けて、恵子の墓参りに行き小百合と出会い、ひょんな事からバンドのメンバーになり、そしてリエ坊も傷付けてしまったんだ。
そんな事を考えていたら、不意にポロっと涙が転がった。
「なん、泣きよると?」
「ごめん、何かね・・・」
「もう気にせんで良かよ?うち、アンタが大好きやけん」
「恭子・・・」
恭子の優しい言葉がボクの胸にストレートに響いた。
そして、流れ出した涙は止まらなかった。
正直、ホッとしたのかもしれない。
きっと気付かないうちに、ボクは一杯いっぱいだったのだろう、ここ数日間の出来事で。
恭子は黙ってボクを泣かせてくれた。
きっと恭子は恭子で言いたい事も聞きたい事も山ほどあるのだろうに、何も言わず。
「ね、一緒に九州行こう。して、またオバちゃんとこに世話になって・・」
「アンタが見たがっとった五山の送り火、二人で見ような!」
うん・・とボクは声にならない声で頷いた。
・・・続く