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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ ・・第3部

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   ノブ (第3部)







        八月





翌朝の目覚めは、また・・汗びっしょりだった。

「ふ〜、参ったな・・」
ボクはクーラーのスイッチを強にして、シャワーを浴びた。

シャワーを終えてサッパリした所で、ボクはカレンダーをめくった。
「8月か」
そう、色々あった7月が終わって、いよいよ夏真っ盛りだ。

次回の練習はリエ坊からの電話待ちだったので、差し当たっては自分の準備をしなければならなかった。

ボクはアパートを出て、楽器店に向かった。
幸いこの界隈には楽器店が沢山あったし、どのジャンルに強い店か、店頭を眺めるだけで分かったので有難かった。

ボクはその内の、ショーウインドーにギターがいっぱいぶら下がってる1軒に入った。

中はクーラーがガンガンに効いてて、おまけに大音量のレッド・ツェッペリンが流れてた。

ボクはまず、スティックを選ぶことにした。
タカダに教わった通り、後ろ3分の1を人差し指と親指で軽く摘まんで、上下に振ってみた。
「重すぎず振りやすいヤツ・・・」

そして沢山あるスティックの中から、いい感じのを3セット選んだ。
ソイツはポンタ ムラカミ モデルと刻印された、ヒッコリー製のヤツだった。

「あとは・・」ボクはチューニングキーを取り、バンドスコアのコーナーに行った。
ジミヘン、イーグルス、キッス、クリーム・・・やる予定曲のスコアを集めて、レジに向かった。

「これ、お願いします」
「はい、ちょっと待ってね・・」
咥え煙草の長髪の店員は弦を張り替えてるのか、向こうを向いたままギターを抱え込んでいた。

暫く待って「ゴメン、待たせたね!」
その拍子に、煙草の灰がポロっとカウンターに落ちたが、店員は素知らぬ顔でボクから品物を受け取った。

そしてレジを打ちながら言った。

「なに、ドラム始めるんだ」
「あ、はい」
「タブ譜、読めるの?」

「え?タブって何すか?」
「ドラムの楽譜だよ、叩く順番とか書いてあるんだ」
「知らない・・え!それ読めなきゃ無理っすかね」

簡単だよ、ほら・・と店員は灰が飛び散ったカウンターにジミヘンのスコアをひろげた。

「このさ、一番下・・音符じゃない変な記号があるでしょ?」
「はい」
「これが、ドラムスのタブ譜なんだよ」

ま、基本的な叩き方しか書いて無いけどね・・と言いながらも店員は丁寧に教えてくれた。

「この線についてる印がハイハット、これがスネア・・」
「でさ、これを見れば1小節の中で、それぞれをいくつ刻めばいいかが分かるんだ」

「はぁ〜、こんなのがあったんだ・・」ボクはタブ譜に釘付けになった。

一通りの説明の後、店員が言った。
「でもな、こればっかりだと、詰まんない演奏になっちゃうこともあるからね?!」
「そうなんですか?でも決まりなんでしょ?」
「うん、決まりは決まりだけど」

「この通りにやらなきゃいけない・・なんてのは無いしさ」
「タブをなぞれば、それっぽく聞こえるって位にしといた方がいいね」

「うちのドラマーもそうだけど、耳コピーしてタブ眺めてさ・・あ、こうなってたんだって感じだよ」
「初心者のうちは、忠実になぞるのもいいかもしんないけどね」
なんか矛盾してるな、オレ・・と店員は笑ってスコアとスティック、チューニングキーを手提げに入れてくれた。

「タイコは?持ってんの?」
「・・いや、まだ何も」
「そっか、待ってな?!」
店員がカーテンの奥に消えて、少しして出てきた。

「これ、やるよ」
まだまだ使えるからさ・・とボロっちい丸い革ケースのジッパーを開けた。
古びたスネアが出てきた。

「薄くもないな、ミドルだな・・こりゃ」

そのスネアは、上下ともカワが張ってなくてスカスカだった。
「ただ、ヘッドとスナッピーは買って貰わなきゃならないけど・・いい?」
「え、ヘッドって?」
「ヘッドってのは、タイコのカワの事だよ。スナッピーて言うのは、裏に渡してあるビロビロのスプリング」

「高いっすか?」
「う〜ん、ピンキリ!」

参った、今日はそんなに持ってない・・って言うより、京都旅行と福島の往復で散財してしまっていて、実の所、金欠に近かったのだな、ボクは。

ボクは正直に今の全財産を言った。

「そうか・・じゃ、ヘッドは中古の程度がいいヤツあげるよ」
「スナッピーだけ、買ってくれたら」
「え、悪いっすよ、そんなにして貰ったら」

「プロはね、ワンステージ叩くと全部張りかえちゃうんだよ、ヘッド」
「だから張替頼まれた時に程度がいいのは取っとくんだ、うちで」

そう言いながら店員はまた奥に行き、2枚の丸い白いカワを持ってきた。

「張り方、教えてやるよ」
店員はスネアをカウンターに置き、手早く8本のピンの上下のナットを緩めて、上下の枠を外した。

「こうしてヘッドをはめ込んで」
「ナットを締めてさ・・・」
見る間に、スネアが生き返ったみたいに見えた。

「うまいっすね、凄い!」
「あはは、オレ元タイコだから」
「へ〜、ドラムもやってたんですか?!」
うん、何でも屋だった・・そしたらこんな仕事になっちゃった!と店員は笑いながらもテキパキと上下のナットを締め終えて、スネアを置いた。

「さて、ここからが本番なんだ」
店員はカウンターの隅をまわってコッチに来た。

「そこの椅子、座って」
「はい・・」
「見てな?」
そう言って店員は膝の上にスネアを斜めに持ち、スティックの後の丸くなった所で8本のナットのすぐ近くを軽く叩いて1周した。

そしてもう一度叩いて、チューニングキーでナットを締めたり緩めたりしながら、8ヶ所の音が同じになる様に調整した。

「じゃ、裏・・やってごらん?!」
「あ、はい」

ボクはおっかなびっくり・・見た様にやってみた。
でも中々、8ヶ所とも同じ音にはならなかった。
「難しいっすね」
「大丈夫、すぐに慣れるよ」

「でも、そのT字型のレンチが、なんでチューニングキーって言うのか分かったろ?」
「はい、ドラムも必要なんですね、チューニングが」
「そうだよ、場合によっては・・会場の広さとか曲でスネア取り替えたりさ、チューニングし直す事もあるもんな」

そうなんだ、奥が深いっすね・・とボクは嘆息した。
「はは、そんなご大層なモンじゃないけどさ・・・みんな自分の思い通りの音、出したいじゃん?!」
「そうなんですね」

じゃ、次・・と店員はスネアをひっくり返して、ビラビラのスプリングが何本も横にならんで、両端が留められているモノを置いた。
そして片方を固定のクランプにネジ止めして、もう一方の調節出来るクランプを下に緩めて、同じ様にネジ止めした。

そしてひっくり返して、ボクに持たせた。
「真ん中、叩いてみ?」
「はい」
ポコン・・と間抜けな音がした。

「じゃ、その横の出っ張り・・上にして叩いて」
「これ、ですか?」
ボクは横にあるレバーを上にあげて、もう一度叩いた。

タン!・・今度は締まったいい音が出た。
「な?スナッピーがあるのと無いのとじゃ全然違うだろ?音がさ」
「はい、ビックリしました!」
「そのレバーをあげると、スナッピーがピンと張るんだよ」
作品名:ノブ ・・第3部 作家名:長浜くろべゐ