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愛と苦しみの果てに

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 洋介は悶絶した。しかし、かろうじて「俺の子?」と確認する。それ以外の言葉が出ない。ただテーブルにあるコーヒーをごくごくと飲み干す。
 可奈子はそれに静かに話す。
「ぜひ、洋介さんには知っておいて欲しかったの。この子はね、あの時の子なのよ。私も最初わからなかったわ、だけど後で、病院で詳しく調べてもらったら……、洋介さんの娘だったのよ」

 そんな会話の間でも、優香は可奈子の膝の上で無邪気に遊んでいる。洋介はただそれをじっと見つめているしかできなかった。
「優香はね、洋介さんの娘なのよ」と可奈子が断言した。だから、間違いなくそうなんだろうと洋介は信じた。
 さらに可奈子は、まるでこの事態を再確認するかのように、「この事、まだ啓太は知らないわ。だけど、いずれわかるでしょう」と言う。 
「啓太は……、いずれね」
 洋介もその通りだと思い、さらに「啓太には嘘を付けないからなあ」とぶつぶつと呟く。
 こんな覚悟をしたような返事をしたものの、洋介にはどうしたら良いものかがわからない。そんな不安そうな洋介に、可奈子は「心配しないで、洋介さんに迷惑を掛けるつもりはないから」と。

 そして心の奥底に眠る真実を絞り出す。
「だって、優香は……、私が一番好きだった人に抱かれて出来た子だから、嬉しいのよ」
 可奈子にはもう涙はない。いつの間にか、母親としての強い顔になっている。
「洋介さんにとって、とても辛いことだと思うけど、聞いて欲しいことが、三つあるの、いい?」
 可奈子は多分考え尽くした挙げ句に意を決し、洋介に会いに来たのだろう。その話しぶりに母親の力が感じられる。
「その三つを、話してみて」と洋介は返した。可奈子はそれを受け、洋介の目を見つめ、しっかりとした口調で語る。
「一つはね、洋介さんはこの件で動かないで欲しいの。すべて私に任せて」 
 洋介は「そうかもな」と小さく頷いた。

 可奈子は大きく息を吸い込み、母親の顔で、「二つ目はね、洋介さんは、しばらく私たちの前から消えて欲しいの」と。
 洋介はあまりにも唐突の話しで考えがまとまらない。

 今、無邪気に遊んでいる優香は、あの夜の過ちで親友の妻との間に出来た子。洋介は、その要望がそうわからない話しでもないなあとぼんやりと思う。それから洋介は最後まで聞くことが先かと思い、「それで、三つ目は?」と次の言葉を待った。
 可奈子は背筋を伸ばし、姿勢を正す。そしておもむろに、「三つ目は、辛いと思うけど聞いてちょうだいね。戸籍上は、この子は今、啓太の子よ」と。
 可奈子は少し緊張しているのか、息を詰まらせる。洋介は「ゆっくりで、良いよ」となだめると、可奈子は「うん」と一つ頷き、非常に重たい言葉を発するのだった。 

「だから、私たち夫婦に……、優香をいただきたいの」 
 洋介はもう考えが混乱してしまった。返す言葉が見つからない。


作品名:愛と苦しみの果てに 作家名:鮎風 遊