名探偵カラス Ⅲ
玄関のチャイムに緊張したのは真由美さんも一緒だった。
すでに顔色は蒼白く、よく見ると肩口が小刻みに震えている。
もしアイツだったら……と考えればどれほど怖いか。俺だって察するに難くない。
迷っているとまたチャイムが鳴った。
真由美さんは覚悟を決めたのか、頭を少し前に傾げ「うん」と頷くと、それでも恐る恐る歩を進め、何とか玄関まで行った。
その間にも急かせるようにチャイムが鳴る。
「はい、どなたですか?」
震える声を絞り出すように真由美さんが尋ねた。
「すみませーん。回覧板ですー」
外からそんな言葉が返ってきた。
「――回覧板?」
俺がホッとしたのは一瞬で、本当に回覧板だろうか、と怪しんだ。
しかし真由美さんは違った。
「あぁ、なんだ回覧板かぁ……」
一気に真由美さんの中の緊張が緩む音がした。
蒼白かった頬には朱がさし、その手はドアのノブを握った。ロックを反対の手で解錠すると急いでドアを開けた。
俺が心配になって、短く「カァ」と鳴いたが、手遅れだった。
真由美さんは、相手を待たせて申し訳ないという気持ちが働いたのだろう。
普段ならそんなことはないだろうに、その時だけは覗き穴から確認することもせず、ドアを開けてしまった。