Not,last summer
結局美帆さんと車で帰らされた莉紅ちゃんがマジ泣きだったのは、梨香と帰れなかっ……うん、ごめん莉紅ちゃん。君は薄情の真逆を行く子だもんね、わかってる。……ありがとう。
美帆さんはいつも通り……でもなかった。ずっと、車の窓で手を振ってくれた。あんなに真剣に手を振られたのは、初めてかもしれない。
「またねー」
梨香と別れる右の道。私は、いつもの調子で手を振る。
「ああ」
梨香もそれに応え、軽く手を上げた。
それだけで、私たちはお互いの家にまっすぐ自転車を走らせる。
だって、お互いにわかってたから。
これは、私たちの最後の夏じゃない、って。
* *
次の日、私は母と共に、生まれ育った町から離れた。
「またね」
願いと決意をこめて、そうつぶやく。
見上げた空は、どこまでも、昨日と同じ晴天で。
私は少しだけ、泣いた。
作品名:Not,last summer 作家名:白架