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後書き


 キングの痩せゆく男という作品がある。
 私が知ったきっかけはレンタルビデオショップで同名のビデオタイトルを見かけたのが始まりだった。
 その頃は意識していなかったのだが、日常が非日常に変わる瞬間というのに恐怖を覚えるのは人間としては当然だったらしい。その数日後、私はとある路線の地下鉄に乗った。大阪での出来事だ。地下鉄内は非常に大きな音が鳴るため、普段なら他の乗客の話し声などよほど近くないと聞こえないはずなのだが――その日は車両の端に乗っていたが――逆側の端に乗ったカップルの声が聞こえてきた。よく見ると普段はごった返している車内には私と、カップルしか居なかったのだ。
 しかし、聞こえたのは音だった。日本語では無かった。そう、彼女達は多分別国籍の人間だったんだろう。アジア系だから日本人だと決めつけたのは些か疲れていた(余りにも面白くない映画のレイトショーを見た後で、それも回りで座っていたカップルが映画の内容に関係なく騒ぎまくるという状況に心身共に衰弱していたと付け加えておこう)からと言い訳させて貰いたい。そのとき、自分だけが異世界に飛ばされたような錯覚を覚えたのだ。
 そのアイデアを書いたのがこの【声】だ。
 一番最初に書いた初版が仲間内にすこぶる不評で――ジプシーの呪いという荒唐無稽さが気に召さなかったらしい――事故の影響で、という風にさせて貰った。
 このとき、絶賛スランプ後で0に近い感覚からのスタートだった。そのため、非常にヤマが解りづらく全体的にお話として稚拙な部分はあると思う。
 だからこそ、戒めの意味も込め後悔することにしたのだ。
 ひょんな事から、言葉が通じなくなったら。
 ――私なら死んでしまうだろう。



作品名: 作家名:ドナ