日のあたる場所へ
唇に、なにかあたたかいものが触れて、離れる。
これは…なんだろう?
気になって重い重い瞼を上げる。
目を開けると、目の前には………。
「にゃー」
「…………ねこ…」
さっきまで膝で眠っていた猫が、俺の胸に手を置いて唇をペロペロと舐めていた。
あぁ。さっきの感触の正体はコレか。ベロだからこんなにあたたかいんだ。
納得しながら覚醒してきた頭で考えた。でも、こんなにザラザラじゃなかったと思う。
もっとこう、なんていうか、やわらかくて、あたたかくて、プルプル?ふにふに?そんな感触だったと思う。
バカなこと考えながら腕時計を見て固まった。
「え…下校時間……」
そんなに眠っていたおぼえがない。とりあえずどうしよう。
今日、掃除当番だったはず…。誰か残ってるかな。
猫を膝から下ろして急いで教室に向かった。教室の戸の前にきて中を覗くといつもの明るい教室は静まりかえっていた。
やっぱりみんな帰っちゃたんだ。どうしよう俺。掃除サボっちゃった。
みんなに…誤らなきゃダメ…だよな。
「……謝れるかな…」
…無理っぽい。ぽいじゃなくて多分、絶対無理。
多分。みんな俺のことなんて、いなかったことすら気づいてない。
きっとそうだ。たかが一回話しかけられたぐらいでドキドキして、ストーカーみたいにジロジロ見て。俺、気持ち悪い。
太陽さんだってきっと俺が気持ち悪くて、いなくなったんだ。
「…俺、なにやってんだろ…」
誰もいない教室に、自分の声だけが響く。まるで最初から自分しかいなかったみたいな。そんな感じがする。
家にも帰りたくない。どうせ誰もいないんだ。どこにいたって俺は一人ぼっちなんだ。
俺なんて…どうせ……。
「あれ?猫の人だ」
声がして振り向いた。そこにはキラキラの太陽さんがいた。
しばらくボーッとしてたけどすぐに驚いて立ち上がった。なんで太陽さんがここに…!。
あんまりに突然すぎて俺は魚みたいに口をパクパクさせることしかできない。
俺…頭おかしい人みたい…。
「猫の人はなーんでまだ学校にいるんだ?忘れ物?」
「え、ぁ、その…」
太陽さんのふわふわでキラキラな髪が俺のすぐ真下に迫る。
どうしようどうしようどうしよう!。心臓がすっごくうるさい。顔もすごく熱い。俺、病気かもしれない。
病気なら太陽さんに移っちゃいけないと思って少し後ろに下がった。
「おーい?猫の人聞いてるかい?」
「ぇぁ、…は、はい」
ダメだ、うまくしゃべれない。
顔が熱すぎて、鼻血出そう。
「んー、ま、いいや。」
太陽さんはそう言うとすぐに自分の席の辺りをなにやらゴソゴソと探りはじめた。
どうしたんだろう…。忘れ物かな…。忘れ物なら手伝ってあげたい。いや、手伝いたい。
でも、いきなり話かけたら変かな…。なんだコイツとか、思われないかな。でも、でも、やっぱり…!。
「あ、あの…」
「ん?」
話しかけちゃった。どうしよう。
「ぇと、なに、か…探して、ま、すか…?」
「うん。財布がさ、ないんだよなー。多分校内で落としたと思うんだけど」
財布…財布はなくなったら困る、よな。買い物も出来ないから困る。太陽さん可哀相だ。
「ぁ…俺、手伝い…ます……」
「え?マジで?」
「は、…はい」
「んーー。猫の人マジ感謝だー!イケメンのくせに優しいとか惚れてまうやろーー!!」
え…?イケメン?優しい?惚れる?誰が?誰に?。
太陽さんの言った言葉をいまいち理解できないまま、俺と太陽さんは財布を捜し続けた。
途中、太陽さんは俺に「もう遅いし帰っていいよ」って言われたけど、どうせ帰ったって一人ぼっちだったら、こうやって太陽さんと一緒にいるほうが、俺は嬉しい。
だからずっと探し続けた。太陽さんが寝ちゃったあともずっと、ずっと探し続けた。