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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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リブレ

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「その時は仕方あるまい殺してくれ、村の平和のために」
「わかった」
「報酬は3万ハルクでいいかね?」
「5万だ、しかし、交渉に失敗して相手を殺した場合は報酬は1ミルもいらない、この村の産業にかかわる事だからな」
ハルクとは金でできている共通硬貨なのだが、価値が高いため流通はしていない。ミルとは世界で一番流通している価値の低い鉄製の硬貨のことを言う。
 村長は少し考えたあと、ジェイクの申し出を承諾した。
「わかった、その条件を飲もう。それで君たちは相手の妖魔貴族の事をどのくらい知っているのかね」
「詳しく頼む」
「貴族の名はゼメキス・ヴィリジィア伯爵、年は1000を優に越える大貴族だ。ゼメキスの住む屋敷は通称『薔薇の城』と呼ばれている。薔薇の城は屋敷全体を薔薇に守られていて、中に入る事が困難で、そのため屋敷の事を『薔薇の城』と呼ぶようになったのだ。屋敷の中には100人の寵姫がいる、そして、四騎士がおる、後の事はわしにはわからん」
クィンはスマイルとともに軽く会釈をした。
「ありがとうございました」
「昼間の内に仕事を片付けたいから、そろそろ行くか?」
部屋を出て行こうとした二人に村長が声を掛けた。
「奴の屋敷は森の中にある、森に入ったら北東の方角に進め」
村長の言葉に二人とも何も反応を示さなかった。二人はそれぞれ考え事をしていたのだ。
「……めんどくさい仕事になりそうだ」
二人の若者は村長の家を後にした。

 村長の家を後にした二人は森へと向かった。
 村の入り口まで来た二人は村長に言われた通りに北東に向けて森の中を歩き出した。
 森の中は木漏れ日が差し込み陰湿な感じはしない、青々と生い茂った草木は清々しさを放ち、木々の間を擦り抜ける風は新緑の匂いを運んで来てくれる。
 深い森の中で、薔薇の城に着く間にジェイクはクィンの質問攻めにあっていた。
 そういえば、この二人は知り合ってから自分のことについて話し合ったことがなかった。この二人の間には、いつの間にか、そういう暗黙のルールが出来ていたらしい。しかし、聞いてはいけない訳ではないらしい。
 ジェイク曰くクィンの『何で教えてくれなかったんですか』という問いに対して、ジェイクは『いや、聞かれなかったから』とのことだ。それを聞いたクィンは、何故かなるほど、と思ってしまった。
 森の中を歩き続けて20分くらい経っただろうか、二人の前方に薔薇の城と思われる屋敷が見えてきた。
「これが薔薇の城かぁ……」
ジェイクの言葉にはため息が混じっている。
「はぁ、困りましたねぇー」
クィンも深くため息をついた。
「……だなぁ」
村長の説明通り屋敷は薔薇の花で埋め尽くされ建物自体すら見ることが困難だった。
「どうやって入ります?」
「クィンの魔法でどうにか、なんない?」
「実は、さっきから変だなぁと思っていたんですけど……」
「もういい、それ以上言うな……」
ジェイクはこのとき本気で『使えねぇー、村に置いてくればよかった』と思った。
 ジェイクの気持ちを瞬時に読み取ったクィンは少し不満そうな顔をして言った。
「あっ! 今、村に置いてくればよかったって思ったでしょう。もういいですよ、どーせ僕は魔法が使えなきゃただの人ですから」
「……そんな事、これっぽっちも思ってない」
ジェイクの口元は少し引きつっている。
「やっぱり思ってるんだ、だって今少し間がありましたもん」
痛いところを突かれたジェイクは話をそらそうとする。
「で、どーしようか?」
「話をそらせないでください!」
それでもまだ、ジェイクは話をそらそうとした。
「薔薇を一本、一本、取ってくか?」
「何日かかると思ってるんですか?」
「屋敷ごと焼くか?」
「そんな事したら、屋敷の主が怒って協定どころじゃないですよ」
「それもそうだ」
クィンは、いつの間にかジェイクのペースに巻き込まれていた。
「じゃあ、どーする?」
「どうしますか?」
そのとき、二人の近くで何者かの声が!
「フッ……二人揃って使えんな、そこをどけ俺がやる」
二人が振り向くとそこには赤い服を纏った長身の男が立っていた。
 それを見たジェイクの口からこの名前が……。
「あっ……ゼ…ゼロ!!」
「えぇっ!!」
クィンの顔はそう言ったままで凍り付いてしまった。
作品名:リブレ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)