リブレ
「二つに血のうち、妖魔の血の方が濃いようだな」
剣を構えるカイン。彼はクィンと戦う気であった。
「やめろゼロ!! 何する気だよ!!」
「否、私はゼロではないカインだ」
「はぁ! 今はそんなっこたいいだろ、とにかく剣をしまえよ!」
「それは向こうに言うがいい」
巨大な氷の刃が幾本も蒼き瞳のカインに向かって牙を向けた。
氷が音も無く木っ端微塵に粒子に空気中を漂う霧となった。カインの剣技の成せる技だった。彼は氷の刃をただ剣で軽く撫でただけであった。それで氷を霧へと変えたのだ。
霧の中を移動する二つの影。二つの影が激突するや激風が巻き起こり霧を掻き散らし晴らした。そこにいたのは言うまでもない、カインとクィンである。
カインの長剣とクィンの作り出した魔力を結晶化して作った魔剣が互いの刃を交じ合わせ力と力の押し合いをする。どちらも一瞬たりとも力を抜くことはない。
二人の戦いをジェイクは指をくわえて見ていることしかできなかった。二人の間に割った入ったところで邪魔になり、最悪の場合は殺されるのオチだろう。
もどかしさでいっぱいになる。悔しくて、悔しくてたまらない、今の自分に何ができるというのか?
がそんなジェイクの名をカインが叫んだ!
「ジェイク、キサマがどうにかしろ!」
「!?」
いきなりどうにかしろと言われても、今自分はそのことで悩んでいたのだ。そんな自分に何ができる?
「ジェイク早くしろ!」
カインの口調は先程より早くなっている。彼は焦っていた。カインはクィンに押されているのだ。
「俺に何しろってんだ!」
「それでもハーディックの息子か! ハーディックは精霊の加護を受けていた。キサマにもその力がある筈だ」
「そんな力ねぇよ!!」
二人が会話をしている最中にもカインの身体は足を床に滑らせながら後ろに後退している。
「私が見たところ、この男には妖魔と精霊の血が流れている。キサマの精霊の力をこいつに注入してやれば……」
「ちくしょー、わけわかんねぇーよ!!」
ジェイクはクィンの胸へ飛び込んだ。突然の突進にクィンは押し倒されジェイクが上に乗った。
――がジェイクはクィンの服の襟首を掴んだまま何をしていいのかわからない。
「何をしている、早くしろ!!」
クィンの顔は狂気の形相を浮かべ、鋭く伸びだ悪魔のような爪でジェイクを切り裂こうとしたその時、ジェイクは大声で叫んだ。
「わかんねぇよ!!」
奇跡は起きた。ジェイクの身体は金色[コンジキ]に輝くオーラを発し、彼の背中から水あめのように伸びた光は女性の形を象り宙で止まったかと思うと、クィンの身体に一気に流れ込むように吸い込まれていった。
苦痛に歪むクィンはジェイクを5mも跳ね飛ばした。
己の身体を抱きしめ床を転げ回るクィンの顔はおぞましいまでに歪み苦しそうであった。そして、やがて動きを止めた。
「もしかして死んじゃったのか!?」
「安心しろ、息をして……」
バタン! 後ろを振り返るとカインは床に倒れていた。
「だいじょぶかゼロ!?」
ゼロに駆け寄り息を確かめると、息はある。脈も正常だ。
「……まいった、どうすっかこれから?」
ジェイクはゼロとクィンを担ぐと二人を引きずりながら屋敷の外へと出た。
屋敷を出たジェイクは屋敷を一望した。屋敷は初めて見たときよりも何百年も歳を取ったように見えた。
二人を抱え前を向き歩き出すジェイク。彼は決して後ろを振り返らない。
「……あのパンチョになんて説明すっか?」
紡がれる因縁 完
作品名:リブレ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)