小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ef (エフ)
ef (エフ)
novelistID. 29143
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

夢の途中6 (182-216)

INDEX|1ページ/8ページ|

次のページ
 
===================================================
章タイトル: 第24章  別れ 1995年冬

震災20日目、国道43号線・2号線共に最低限の通行が可能になり、自衛隊は勿論、他府県自治体よりの救援隊・救援物資も十分な量が届き始めた。
一部でガス・電気のインフラも回復し、木島医院にも電気・ガス・水道の総てが回復した。
患者の数も10日目を境に減少し始めた。他医療機関も徐々に機能し始めたのだ。
木島医院はとうとう地域医療の最前線を守り切った。

孝則と香織は住んでいた兵庫区の賃貸マンションが傾いた為戻る事は叶わず、
当面の間、木島医院の二階の空間を間仕切り仮住まいする事となった。
電気・ガス・水道がようやく復旧し、食事と風呂は木島夫婦と一緒に摂った。
木島夫婦の生活空間である三階から仮住まいの二階に下りて、パーテーションで囲われた準備室の中に簡易ベッドが二つ並べられている。
暫くの間、此処が二人の唯一プライベート空間であった。
傾いた自宅マンションからと当座の着替えや生活必需品は持ち出して来ていた。

震災後20日を過ぎたと言え、まだまだ多くの被災者が最寄りの学校の体育館や公民館の大広間で何所帯も同居している。
そこではこのようなプライベート空間など、皆無であった。二人は有り難いと思った。
元々ワンフロアーである二階の一角は、小さな電気ストーブ一つで温まる筈も無く、部屋の両側に並べた狭い簡易ベッドの中で、二人は布団にくるまりながら久々に語り合った。



「香織、疲れたろう?」
『そうね、無我夢中でやってきたからそうは感じなかったけど、こうやってひと段落すると、かえって疲れがどっと出て来るわね・・・』
「本当にそうだよ、一時はどうなるかと思ったけど・・
診察中に睡魔に襲われ、何度意識が飛んだ事か・・・
横浜の研修医時代でもこんな経験は無かったな・・・・・
これで何とか乗り切ったのかな?」
『ええ、・・でもまだ住む家も無い人が沢山居るわ・・仮設住宅が出来たって被災者全員が入れる訳じゃないもの・・・』
「ああ、総てがすぐにどうなる事もないだろうけど、出来る事から一つずつやっていくしかないね・・・ねぇ、香織・・・・・こっちに・・おいでよ?」
『え?・・・・・・ん、もォ~♪疲れてるんじゃ無いの?』
「それとこれは別さ♪だって、お互いそんな気持には今までなれなかったからさぁ~♪」
『うふふふ♪しょうが無い人♪
明日診察中に眠ったら承知しませんよ?ハ・ナ・ダ・先生?うふふふ♪』

香織は孝則にそんな事を言いながらも、いそいそと嬉しそうに孝則の簡易ベッドに移った。
孝則は布団の端を捲り上げ、香織を迎い入れる。
「香織・・・・無事で良かったな・・・」
『アナタ・・・本当に無事で良かった!生きてさえいれば、何とかなるわ!』
「そうだ、生きていれさえすれば、何とかなる!」
『アナタ!』
香織は涙ぐんで孝則の胸に顔を埋めた。
狭いベッドの中で孝則は身体を入れ替え、香織に覆いかぶさると唇を重ねた・・・
香りも夢中でそれに応じる・・
香織の身体からまだ石鹸の匂いがする・・・
二人は泣きながら互いをキツク抱きしめあった。




それから3日後の2月8日、木島医院は思い切って3日間休診とした。
1月17日の震災以降、1日の休診もなくきた木島医院であったが、他医療機関の再開もあり、週明けの月曜日から通常の診察時間に戻す事となったのだ。
孝則夫婦は当時奈良に住む香織の妹・美羽(みわ)のもとに向かう事にした。
震災の2日後、なかなか繋がらない孝則の携帯でやっと二人の無事を伝える事が出来ていた。
美羽は香織より3歳下の36歳になっていて、大手食品メーカーに勤める夫・伊吹武雄と10年前に結婚し、上は8歳の奈美、下は5歳の麻美の二女をもうけて、薬師寺近くの会社の社宅にいた。
この頃ようやく代替バスを遣わずに阪神電鉄で神戸市内から大阪市内から行けるようになっていた。
尤も、神戸市内とは言っても、隣接する芦屋市に近い青木駅(おおぎえき)であった。
梅田まで出れば地下鉄で難波まで行き、奈良行きの近鉄に乗れた。
二人は渋滞するバスをやめて、2時間近く歩いて青木駅まで行った。
久々に外出した孝則と香織は改めて今回の震災の被害を目の当たりにした。
倒壊した家屋の跡であろう真新しい空き地、辛うじて自立している民家の屋根の殆どに水色のブルーシートが被せられ、雨漏りに備えていた。
久しぶりに電車に乗り、大阪府との県境である淀川を渡る。
大阪も大阪府の最西部である西淀川区が大きな被害を受けていた。



川岸に遊舗道として平に敷き詰められていたであろう大きな踏み石が悉く浮き上がり、でこぼこの道になっていた。
川渕のコンクリートの堤防も所々崩壊していた・・・
けれど、阪神電鉄の終点・梅田を降りると、また違う意味で二人は驚いた。
目の前を闊歩する人々は生気に溢れ、綺麗なコートを纏い、ピカピカのハイヒールで香織達の目の前を通り過ぎて行った。
僅か快速電車なら1時間と掛らない大阪と神戸・・・・
特に神戸はお洒落な街と言われ、プライドに満ちていた神戸の人々・・・
それが、淀川と云う川幅700m程の川を渡っただけでこれだけ違うのか?
まだ川の西向こうには着の身着のままで過ごす人々が居て、
かつて大勢の買い物客で賑わっていた街は炎に焼け尽された・・
今は撤去作業の煤塵に覆われている・・
ましてやハイヒールで闊歩するまともな道路すら無かった・・・
二人はまるで浦島太郎になったような気がして、暫く阪神電鉄の改札を出た辺りで立ち尽くしていた。
二人は地下鉄に乗り、難波まで出ると、ひとまず地上に出て道頓堀にある有名なお好み焼き屋に入った。
これは予てから二人で今一番食べたいものだった。
分厚く焼いたお好み焼き二つが目の前の鉄板の上に移され、そのお好み焼きの上に店員がたっぷりのソースを刷毛で塗り、スプーンで掬ったマヨネーズをその上に載せクルクルと渦巻き模様にする。
たっぷりの青のりを振りかけ、最後に薄く削った花ガツオを散らした・・・
カンナくずのような鰹節が湯気と共にお好み焼きの上で踊った♪
二人は店員の指先をじっと見つめ、まだまだかと生唾を飲む・・・
[さあ、どうぞ♪ごゆっくりお召し上がり下さい♪]
店員の言葉と同時に二人は手にしたコテをお好み焼きに突き立てた!
       ザクッ♪
    美味しい~~♪(^v^)(#^.^#)



二人は大阪難波駅から近鉄の快速電車に乗り大和西大寺まで行き、かしわら線に乗り換え目的地の西の京駅に降り立った。
この地は有名な唐招提寺・薬師寺の最寄りの駅であり、観光シーズンには多くの乗降客で賑わっている。
未だこの頃、3月末からの行事『修二会(しゅにえ)』には時間(ま)もあり、駅周辺は閑散としていた。
改札では伊吹武雄・美羽の妹夫婦にその娘奈美と麻美が二人を迎えに出ていた。
[姉ちゃん!]『美羽ちゃん!』
二人の姉妹は改札を出た処でひしと抱き合い、泣き崩れた・・
[姉ちゃん、身体どうもないか?]『うん、大丈夫やで!堪忍なァ、心配かけて・・・』
作品名:夢の途中6 (182-216) 作家名:ef (エフ)