夢の途中5 (151-181)
孝則は巌に神戸の悲惨な現状を訴え、医療チームを神戸に来させるよう頼んだ。
結果、埼玉県医師会として救援医療チームの派遣は実現したが、木島医院のような個人の診療所へ他県からの医療チームを応援に行く事は出来なかった。
ならば、私立病院である【花田総合病院】からの医師派遣はと云うと、巌は孝則を神戸で引き受けた木島とその折衝突しており、図らずも木島の大学の後輩である武庫川医科大学付属病院院長・園田亘と同じく、『個人病院では到底今回の災害には対応できない。神戸を捨て、埼玉に帰れ!』との返事で在り、孝則の気持ちとは相容れないものだった。
ただ、花田家に養女として入った美智子はこの時花田総合病院の事務長として敏腕を揮っており、孝則には同情的であった。
本来なれば花田総合病院より、内科医・外科医・精神カウンセラーの派遣も考えたようだが、巌の頑なな態度から医師派遣は諦めた。
「孝則さん、お身体大丈夫?十分お休みになってるの?」
孝則は午前中の診察を終え、誰も居ない二階に上がって美智子と電話していた。
[あぁ、大丈夫さ、今のところはね・・・]
「何もして差し上げられなくて、御免なさいね・・・」
[・・ああ、そんな事ないさ・・・美智子は良くやってくれるよ・・・]
「そちらはまだ電気とか水道は通じて無いの?」
[うん、水道は何とかあちこちで出るようになった。 電気とガスはまだ少し掛りそうだな・・昨日五日ぶりに風呂に入ったよ・・近くの小学校に自衛隊の仮設浴場が出来てね・・
有り難かったな~♪]
「そう・・・お可哀そうな孝則さん・・・私が傍に行って抱きしめて差し上げたいわ!」
[・・・・それで、今日は何だい?用があったんじゃないのか?]
「・・・うううん、別に・・・孝則さんの声が聞きたかっただけ・・・お父様には孝則さんが元気で頑張ってるってお伝えしておくわ。あれでも、孝則さんの事が気になって仕方ないのよ?分かってあげて?」
[・・ああ、分かってるよ・・・じゃぁ、切るよ?]
「ええ、お身体、大切になさってね?じゃぁ・・」
孝則はつい一カ月前、二年前に亡くなった母・登美子の命日の法要の為埼玉の実家に帰っていた。
相変わらず巌には許されていない孝則ではあったが、美智子の取りなしで毎年暮れの命日の法要には招かれた。
当然の事として香織は招かれなかったが・・・
香織は嫌な顔ひとつせず、孝則を見送った。
心の中のザラツキを隠したまま・・
去年の暮れに行われた登美子の三周忌の法要に孝則はひとり大宮の実家を訪れた。
一周忌を含め、この三回忌までが故人にとって一つの区切りで在る為、花田家に縁ある親戚縁者八十名近くが訪れた。
万事が派手好きの巌により、一周忌同様三周忌も僧侶三人による読経の中で厳かな中にも盛大に取り行われた。
八十名の法要参列者が帰り、広い大宮の屋敷には巌と美智子と孝則、それに住み込みの年配の家政婦の四人だけとなった。
孝則は翌朝神戸に帰る為、その夜は大宮の屋敷の自室に宿泊した。
去年の一周忌の時も泊まった・・
巌は孝則が大宮に居る間も一言の会話も無く、早々と自室に入って就寝したようだ。
孝則も入浴の後自室に入り、携帯電話で香織と話した後ベッドに潜り込んだ。
11時を過ぎた頃、部屋の扉が静かに開き絨毯を誰かが歩く気配がして、孝則のベッドの布団をめくると彼の背後に滑り込んだ・・・
「孝則さん・・・」美智子は孝則の背中にしがみつき、顔を埋めた・・・
孝則は驚く風でも無く、美智子のするに任せる・・
「・・・孝則さん・・・」
もう一度名を呼ばれふり返る孝則・・
薄暗い室内灯に美智子の顔が・・・
美智子の腕が孝則の首に絡みつき、激しく唇を重ねて来る・・
柑橘系の甘い美智子の体臭が孝則を狂わせた・・・
孝則も両手で美智子の背中を抱き寄せ、下に組みし抱いて狂ったように唇を重ねた・・・
女の中で絡み合う二人の舌・・・
男の手は女の薄い生地の寝着の胸元を荒々しく肌蹴、
その掌の中で白い乳房がゴムまりのように何度も変形を繰り返していた・・・
「ああ~~~!ああ~~!孝則さん!ああ~~~!ああ~~!」
男の身体の下で恍惚の表情で喘ぐ女・・・・
孝則と美智子は前年の法要の夜もこうして交わった。
孝則と巌の中を取り持つ条件として、美智子が望んだからだ・・・
もとより孝則と美智子は肉体関係が在った。
しかも、互いが初めての相手であった。
香織に対する罪悪感を感じながらも、孝則は魔性のような美智子の身体を前に拒絶する事が出来なかった・・
女が男の上になり、男の熱い高まりを中に納めると、
激しく腰を前後させた・・
「ああ~~~!あああ~~~~!!いい~~~~!!!もっと!もっとォ~~!
孝則さん、もっと突いてぇ~!」
髪を振り乱し、白いたわわな乳房を揺らして女は喘いだ・・
端正な顔を苦しげに歪め、はしたない言葉を口にしている・・・
この時32歳になっていた美智子は15歳で孝則と結ばれた頃とは比較にならない程妖艶に成熟していた。
四年前にイギリス留学から帰国して以来、花田総合病院の事務長として幾つもの経営改革を成し遂げて来た。
今や巌の片腕として無くてはならない存在になっている。
同時に巌を始め、親戚知人から度重なる縁談を持ち込まれたが、何やかやと難癖をつけ断り続けた。
回りは【高慢な女】と嘲るも、近頃の娘のまだ三十代の始めと在ってはこんなものかと諦めの境地で、あと五年もすれば逆に焦りだして来るだろうと踏んでいた。
しかし、美智子には孝則以外の男は男で無かったのだ・・・
男の身体の上で登りつめた女は、男に覆い被さったまま肩で荒い息をしている・・・
男の白いほとばしりは女の中に充満していた・・・
「・・はあ・・はあ・・ねぇ、孝則さん・・・もう少しこのままで居ていい? ・・・」
[・・はあ・・はあ・・はあ・・ああ、・・・・・・・・・・・・・・・]
美智子は満足げに微笑み、孝則に口づけした。
作品名:夢の途中5 (151-181) 作家名:ef (エフ)