名探偵カラス Ⅰ
男がその子を殴った。そしてやにわに、その子の服に手を掛けて脱がし始めた。その子は殴られたことがよっぽどショックだったのか、抵抗する気力もなくしたようで、されるがままになっている。
俺の耳は優秀だが、目はそんなに遠くがはっきり見えるほど良くはないから、もしかしたらその子は気絶していたのかもしれない。
逆にその方がその子にとっては幸せだったかもしれない。その後の男の行動を思い出すと、その子が哀れでならない。今の俺は、ただ鳴くことしかできない真っ黒なカラスだから、その子を助けてやることなど到底できない。
こんな俺でもその昔、紀元前のことだが、バビロニア国のハムラビ王に仕えていたことがある。当時の情勢で、国王がある法律を作ろうとした時、相談された俺は一つの提案をした。それは罪人に対する罪の償い方の提案というか、罰の下し方の基準の話だった。
当時の俺は、もちろんこんな真っ黒な身体のカラスなどではなく、国内でも有数の魔法使いだったのだ。
俺が提案して国王が定めた法律は、後々ハムラビ法典と呼ばれ後世にまで残った。
あぁ、それなのに、それなのにだ。〔合いの手はご無用で…〕俺が提案した内容は、神の意に反したものだったようで、俺は神の怒りを買い、こんな真っ黒な身体にされて、未だにこの世に留まり、臭い飯の欠片を漁らなけりゃならない。なんて哀れな身の上なんだ! 俺って。
あの時俺が王に提案したのは『目には目を、歯には歯を』だった。
それは『決して必要以上の罰は与えず、犯した罪と同等の罰を』というものだったのに、神はそうは取らなかったらしく「すべての人に罰を与えるのは間違っている」と言い、俺が言い訳しようものなら「逆らうでない!」とひと言。
瞬く間に俺は真っ黒なカラスになっていた。と言うわけさっ。
「そうだろ? 俺って可哀想だよなっ!」
しかしあの時、神が付け足しのように言った言葉は覚えているぞっ。
神はこう言ったんだ。
「お前が本当に正しいことをした時には、お前の姿を元に戻してやろう」と。
ところがどうだ。あれから数百年が過ぎたというのに、俺は相も変わらず真っ黒なまんま。なんの進歩も、もちろん退化もない。元々が魔法使いだから死ぬこともない。この先延々と、一体いつまでこの姿でいればいいのやら……。
あぁ、こんな愚痴を言っても始まらない。俺はこう見えて馬鹿じゃないんだ。
あっ、そうこうしてる間に、アパートの部屋に変化が!
そいつが女の子にした行動は、いくら俺でもちょっと口にはしづらい事だった。人間の言葉で言うと、婦女暴行? いや婦女じゃないな。幼女だから……。
すると、「幼女暴行」ということになるのか……。
俺の見る限り、その子はそれっきり動かなかった。あいつ、まさか女の子を殺してしまったのでは…? もしそうなら、石をぶつける程度では済まされないぞ! 俺の怒りは憎しみへと変わっていった。