名探偵カラス Ⅰ
たぶんその後、警官があいつの職場に逮捕に向かったのだろう。あいつはその日、アパートには帰って来なかった。しかし、スーツケースの中の遺体は、公園の池に沈んだままだ。
「うーん、どうするか……? 何か名案は……」
と、考えてあることを思いついた。
俺は急ぎ公園に行くと、池の中の鴨を探し、そして鴨に頼んだ。
「カァーカァーカァー」と。
鴨は快く頷くと水の中に潜った。
しばらくして上がってきた鴨は首を横に振った。どうやら重過ぎて、鴨の力ではスーツケースを持ち上げることは不可能なようだ。仕方がないので、何とか蓋だけでも開けてくれるように頼んだ。
そして翌日、センセーショナルなニュースが新聞やテレビで報道された。
『行方不明の女児の遺体が、姿を消した公園の池の中から、スーツケースに裸で入れられた状態で見つかった』
そういう内容だった。
当然犯人は、すでに幼児の衣服を発見した時点で、警察の手の中にあるから、
警察は堂々と記者会見に応じたようだ。
陰で俺の行動がそうさせた……なんてことは、当然ながら誰も知らない。
――と思っていたら、突然目の前に神が現れた。
「お前、この度は良く働いた。偉いぞ! 褒めてとらす。褒美に魔法を解いてやろう」
神がそう言った途端に、俺の姿は元の魔法使いの姿に戻っていた。
「――但し、今後のお前に指令を与える。良いか、これを守らねば、また元のカラスに逆戻りだと知るがよいぞ!」
そう言うと、俺に指令の言葉を残し、神はまたどこへやら……姿を消した。
「うーん、困ったなぁ、そんな指令を頂いても……」
どうしたものかと俺は思案した。
そんな指令を……しかし、またカラスに戻るのも……。うーーん。
俺は散々考えた末、一つのアイディアが閃いた。
「そうだ! 俺一人では難しいから、仲間に頼もう!」
そして俺は、それまで親しくしていた仲間〔犬・猫・鳩・すずめ・ねずみ・もちろん例の池の鴨も〕たちに、声を掛けた。
「おーいみんなぁ、頼むから、もし人間たちで幼児を虐待してる奴を見掛けたら俺に知らせてくれよー! 俺はそいつらを懲らしめないといけないんだー。それが神から俺に与えられた指令だからさぁー。頼むぜー!」
俺はもうカラスではなかったが、何百年もカラスの姿でいたお陰で、沢山の仲間ができていた。
俺の容貌は相変わらずよれよれの黒い法衣姿で、このままでは人に見られたら変人に見られるので、魔法を使って一般人に変身した。
以前、俺が王に進言した法律は、今のこの世にこそ必要なのかも知れない。
「目には目を、歯には歯を」
罪を犯したら同等の罰を持って処す。それ以上でもそれ以下でもなく……。
しかし、子供を殺された親。親に殺された子供にとって、そんな法律が何になろうか? 失われた命はもう二度と戻っては来ないのだから。
もし、あなたの身近で動物たちが、いつもらしくない所作を示したら、それは何かを警告しているのかも……そう思って付近を、そして周囲を見回して見て下さい。そこには、陰湿ないじめや虐待が、隠れているのかも知れないのです。
それに気付けるのは『あなた』しかいないのです!