夢の旅路
―こんな夢を見ました―
何かを感じて、やたら重いまぶたを開くと、瞳に映るのはただただ群青一色の世界だった。
ここはどこなんだろう。私はどうしたんだろう。
そんな思いが頭を掠めた時、突然自分の身体が空中に浮遊しているのを感じた。
「え?」
何がどうなったのかさっぱり分からない。
何気なく視線を落とすと、群青の中に横たわる人の姿が朧に見えた。じぃーっと瞳を凝らしてみる。
「あ!」
見紛うことなくそれは私自身ではないか……。
「なぜ?」
私の脳裏は疑問符で満たされた。
同時に横たわる私『みゅう』も、何やら上から注がれる視線を感じていた。しかし何も水晶体には映らない。
身体を動かそうと腕と足に力を入れてみるが、手も足も、脳からの指令をまるで拒絶でもしているかのように微動だにしない。
まるで時すらないような無の世界に一人取り残された感覚。
ひんやりとした孤独感が体内にしみ込んでくる。
「誰か!」
叫んだつもりが、響くものは何もなく、群青のカーテンがゆらりと一瞬傾いだ(かしいだ)気がしただけ…。
「みゅう!」
突然どこからともなく自分を呼ぶ声がして、首を回すこともできないから、意識だけを周囲へ巡らす。
誰が呼んだのか……。
みゅうの感覚は同時に浮遊する私の感覚でもあった。
一体誰が……?
「行くんじゃない!」
激しく引き留める声が、追うように響いた。
しかしその声はみゅうの耳から聞こえる音ではなく、どうやら直接脳に語りかけているようだ。
「誰?」
みゅうが心の声を発した。
しかし、その問いに応えるものはなく、静かな群青の世界にまたひとつの声が響いた。
「行かないで……」
みゅうの肉体を通して、浮遊する私もその声を聞いた。
なんだかとても懐かしい声のような気がする。
「……お母さん!」
はっとその声の主の姿が目の前に広がっていった。
いつも自分を理解し、深い愛で包んでくれた母の声を忘れているなんて……。
そのことに気付いたみゅうは動揺した。
その動揺の波動が私にも伝わって、私のある部分が震えおののいた。私はもしかしたら……。
「なぜ?」
今度は私の中にその言葉が溢れていく。
突然竜巻に飲み込まれたような感覚と共に、浮遊する私は、横たわるみゅうの中へと吸い込まれてしまった。
やがてみゅうは、再びまぶたを開いた時、そこが愛する母の体内だと無意識に悟り、安らぎに包まれた。
外の世界で、今まさに可愛い五歳のみゅうの葬儀が行なわれているとも知らず、愛する母の体内で、生まれいづる日を心待ちにしていた。長くて短い旅を終えて……。
それはまるで夢の世界を旅したように――。 ― 完 ―